あざらしの去る者は追わず
-vol.1-

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おかるの樹 去る者よ去らないでくれ

皆さんこんにちわー、北海のあざらしです。「月刊文文」が創刊されて約1ヶ月、今回は自分が発表する番となりました。
ブンブンは四人四様、それぞれが全く独立した内容でよろしいとおぬま編集長のお達し。ほんとにいいの?
そんなわけで、あざらしも、おぬまさんのページを見るまで、他の三人がどんなことを書いているのか知らないのです。
そしてこのたび、オズに行ってみた!なんと!ふたを開けると、偶然とはいえ殺伐としたタイトルが並んでいる。
「うお!みんな、おっかねえタイトル!」
普段は地味な私たちなのに、なんか危険思想の雑誌みたいだな。うひょー、いいぞ、いい感じ!なんか訳わかんないとこで妙に興奮してきて、みんなに負けるか!「あざらしの、内臓ぎっちょんちょん!」とか、「あざらしの『人肺』」などとタイトルを揃えようかと思ったのですが、おぬまさんがダメだって。まあね。
そこで今回あざらしは『去るものは追わず』とタイトルを付けてみました。あざらしは去るものは追っかけるタチで、なんにでも猛烈に執着してしまう奴なのです。かっこいいなと憧れている、この言葉を選んでみました。これからは〆切守ってがんばるぞ!

おかるの樹 いろんなおっさんとの出会い

あざらしは現在、26歳、この歳までなにをやってきたかというと、ほとんどの時間を自分の為に使ってきました。
きちんと働いたこともなく、仕事は脚本家を志して、ラジオやテレビで何本か仕事もしたけれど、そんなのフーテンがやることで、世間の真っ当な価値観では、きちんとしている職業とは言いがたい。
毎日ぶらりと映画を観たり本を読んだり、親の仕送りで遊んでいたようなものです。
そんな私が、ごく真っ当な大人の社会人と出会うわけがありません。私の恩師、心の師、と呼びたい人は、みな一様に変わっており、世間で言うフーテンもどきでした。
そんなおっさん達の出会いが、私を大きく変えてくれたのです。
今回、様々なおっさんから学んだいくつかのエピソードを、ここで紹介したいと思います。

おっさんの心得その1 
天国より、地獄のコーヒーを飲め

私の通った専門学校の講師の先生に言われた言葉。出会った当時70歳。この人は鬼才と言われた脚本家、彼女がたくさんいて、いろんな女性といいことになったり別れたり、70歳にしてなお、もてもて。ハンサムとかいうレベルを越えて、女性のハートをがっちりつかむ、けったいなおっさんなのです。賭博大好き、若い頃はヒロポン中毒だったというし、ふとももには刃物でつけられた20センチほどの傷があり、お弟子さんの話によると、これは先生が三十歳の時、愛人に包丁で一突きされた傷とのこと。
「先生。先生が70年生きてきて、一番良かったと思う出来事はなんですか」
ある時電車の中で、何気に聞いたあざらしの質問が、先生を面白がらせたようでした。
「ないよ。なんにもないんだよ。」ニヤッと笑って言いました。「70年、なんにもなかったよ」
そんな先生が、私を見て、別に言いたいこともなさそうでしたが、弟子のはしっこに加えてくれることになったのです。
わたしは、先生の仲間とチンチロリン(さいころ賭博)をやって2万円をすったり、変な裏道に同行して汚い人達と会ったり、奇妙キテレツな世界に巻き込まれていきました。しかし、先生は案外紳士で、こと脚本の話に関しては誠実に応対してくれました。
「お前は死んだあと天国に行きたいか」ある時教室で、あざらしの脚本課題を添削してくれた先生が、何の脈絡もなく言いました。
「はあ……」質問の意味がわからず、生返事をするあざらし。
「お前は自分が天国に行けると思っているかも知れないけど、地獄の方がいいとこだ」先生は言いました。
「地獄は、あんまり行きたくないです」
「地獄はいいよ。天国はふわふわとやわらかくて、誰もいないって気がするじゃないか。例えばコーヒー飲もうと思っても、天国の喫茶店じゃあ、なんだか3、4時間くらい待たされそうじゃないか。でも誰も怒らないんだな、天国にいるのは皆いいひとだから」先生は私をケムに巻いて、ほとんど宇宙人と話しているような気がしました。「でも地獄ってのは、なんだか人がうじゃうじゃいそうな気がするじゃないか。きっといっぱいいるよ。お前そう思わないか」
あざらしは困惑しました。「でも、責め苦にあうじゃないですか」
「地獄だって休憩くらいはあるよ。地獄のコーヒーブレイクは、5分くらいしかなくて短いんだな。みんな寒くてブルブル震えて、いやあ今日も痛いですね、とひそひそ話したりして、そこでコーヒー飲んで、あーツ今日もまずいって。そして、すぐまた鬼たちの責め苦が始まったりして。もう足の立つ場もないほどまわりに人がいて。そういう方がいいと思わないか。お前は」
先生はじっと私を観察していました。教室は西日が傾いていました。長い沈黙の間、自分は何を聞かれているのか、禅問答にさらされた坊主のように、身をすくめるばかりでした。
「……私は、やっぱり天国の方が好きです」ああ、だってやっぱり……
「じゃあ仕方ないが、お前は、地獄には呼んでやらないよ」と先生は言いました。それから、この話はおしまいになりました。
翌年先生は学校をお辞めになり、わたしは元の学生生活に戻っていきました。あの日から10年経った今、先生が何を自分に「忠告」してくれたのか、いまだに考え込む時があります。そうして、最近少しずつ、地獄のコーヒーの良さを分かりかけてきたような気がするのです。若い時には死んでも飲みたくなかった地獄のコーヒー、まあ飲んでもいいかと思えるようになったのは、少しはどっかが進歩したのか、単にわたしが歳をとったのか。先生、わたしは心をいれかえました、来たる日には地獄に呼んでくださいませ。

他のおっさん話へ、トゥービーコンテニュー……

おかるの樹 今月のおぬま家日記

今月も、茨城と東京の往復生活。行ったりきたりのダブル生活も板についてきた。
茨城にはおぬまお母さんが一人で暮らしているので、おぬまさんが本業を休む時は茨城で過ごすことにしている。で、あざらしもそこでは真面目な嫁として、真面目に家事をやっている。はじめは不便なことも多かったが、洋服は東京と茨城に半分ずつ置き、パソコンも取りつけて、部屋の掃除も慣れたもの、もうほとんど不自由はない。が、しかーし!そんな生活で唯一解決していないのが、「郵便物の問題」なのだ。
だいたい一週間から10日ほどに一度の割合で、東京に戻ってきているのだが(高速道路の料金が高いのだ)戻ってくる時、あざらしはいつも心臓ドキドキもんなのだ。なぜなら10日分の「おかるユーザー登録ハガキ」が郵便受けに溜まっているからだ。いやもちろん嬉しいんだけど、問題は、その中に「キサマなんで連絡くれないんだッ!ネット詐欺じゃないか!」みたいな怒りの連絡が入っていることがあって、ああ、たいへんなことになってしまった……ということがあるのだ。大抵は事情を説明して、お許し願うのだけど、そうもいかない場合もあり、そうなるとあざらしはびびりまくり、部屋の隅に隠れてほとんど小動物状態。電話の留守電に、ユーザーの方から直接連絡がはいっていることもあり、そうなると、おぬまさんもびびりまくりである。
そんなわけで最近は、美人秘書をやとおうかという話まで出ているのだが、ポケットのなかにはゴミがはいっており、とても秘書をやとうほどお金はなし。ああ、美人秘書がいてくれたら、毎日どんなに家のなかが華やぐことか。それに掃除や洗濯も手伝ってもらえるのに……。ああ、なにかいい解決の道はないものか。

おぬま家の庭に植えたすいか5個
からすに全部やられました。残念むねん。
最近よく来ていた野良犬の夫婦と子供
保健所の車がまわっていったらしい。
馴染みの豆腐屋
ご主人が病気になられたらしく、閉店の貼り紙がしてあった。すごく寂しい。
ラフレシア
世界一巨大な花。主な生息地はブラジルのボルネオ島など。
木漏れ日程度の日が差し込む木の根に寄生する。人工栽培は大変難しく、日本で見ることはほとんど不可能である。また、花を咲かせてわずか数日間で枯れ始め、1週間も経つと茶色く変色してしまう。その臭気は10メートル離れた人の鼻をひんまげるほど強烈である。非常に大きい花だが、別に子供を食べたりはしないという。
晴れ晴れ

今月はほとんど茨城のおぬまさんの実家で過ごしています。夫婦ケンカもせず「おぬまさん」「あざらし」とおでこを指でつつきあう毎日。そんなことは絶対あるわけないが、まあ何事もなく落ち着いた毎日を送っています。おぬまさんは仕事を一時休業中で、プログラムの時間もたっぷり取れている様子。現在は「おじゅう」の正式版に取り掛かっているようです。

来月のあざらし号は、9月1日に発行する予定です。いやあ〆切日が決まっているというのは油断ならないもんだなあ。来月は、あざらしにとって恐怖の連続であった『妊娠出産』について書こうと思っています。それは恐怖体験だったのです。どんな感じ?いたかった?感動的なフレーズとはほど遠かった、あの出来事が、今公衆の面前に明かされる……!次号『出産するあざらし あざらしのイテー!痛すぎるよ日記(仮題)』どうぞお楽しみに!


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デザイン: おぬま ゆういち/北海のあざらし
発行: O's Page編集部