-vol.2- |
こんにちわ赤ちゃん、げへへ、ぐふふ…… | |
こんにちわー、北海のあざらしです。いつもなら、若き日のいかりや長助なみに、「おいーすッ!」と元気に挨拶したいところなのですが、実はあざらしは現在おちこんでいるのです。ああ闇の中に沈みこんでいくようだ……なぜなら、おぬまさんの眼鏡をぶっ壊してしまったからなのです。おわ!お尻でふんじゃって、ぐちゃっ!と……。眼鏡はもう片方の柄が曲がって、レンズの辺りも変形しているのです。おぬまさんが2年も使っている大変なお気に入りで、値段も高価で洒落た眼鏡で、しかも今は直すお金がないのです。おまけにおぬまさんは何も知らずに寝ているのです。おおお、一体どうすれば……!
あざらしの『妊娠出産体験記』 | |
そんなわけで、こわい現実から逃避して先に進みます今月号の『去る者は追わず』、テーマは私の妊娠出産体験について皆さんにお話ししようと思っています。
どうして、こんな微妙な話題を?あざらしのプライベートなんかプー!勝手に産みやがれと言われそうですが、いやまあそういわず聞いてみてください。なんたって産んでる最中はあまりに痛かったので、あざらしは半分失神していたほどです。大半の人にとって、妊娠も出産も神秘のベールに包まれた存在だと思いますが、なにがイタイってんもう、痛いことばっかり、どこがどう痛いんだか、順を追ってご紹介することにしましょう。
1999冬 妊娠発覚
できた!おお、なんとあざらしの腹に生命がやどったのだ、そんなことしていいのか、神よ……
それは、あるめっちゃ寒い日、さわやかな朝でした。洗面台に向かうと、顔色が悪い。黒いのだ。
「へんなもの食べたか?」
胃の辺りを手で触ると、ぐえーという感じの吐き気です。
油料理の食べ過ぎに似たむかつきなのだが、何故か下のお腹も胸やけしてる。とういうことだ?全身が胸やけしているとはこれいかに?と思っているとむかむかして立っていられない程不快な感じです。
なんともたまらず、側にいたおぬまさんに訴えると、
「へんなもの食べたんじゃない?」と、私と同じ推理がかえってきました。
いや、ただの体調不良じゃないぞ、ま、まさか、妊娠?あざらしは、ドラマのワンシーンのように口を押さえました。洗面所の鏡を見上げると、そこにはやつれた顔のあざらしが映っていました。
あざらしは冗談のつもりで言ったのですが、それが、長い体調不良の日々の幕開けになろうとは……。
1999春 妊娠中
「ほんとに妊娠です」
と病院で言われて喜んだはいいが、最初はただ具合が悪いだけ。つわりは段々悪化していき、一日1吐きから、3回吐きに、ついには一日5回も吐く状態となりました。例えば妊娠中のご飯の匂いといったら……健康な時は、んー、うまそう、となる炊きたての香り、妊娠中には、防虫剤の匂いに変化するのです。そう、たんすの中の匂い。防虫剤入りまぜご飯を食べてるみたいだー、勘弁してくれ。
食べられるのは柑橘類、グレープフルーツとかオレンジだけ。楽しいもんだろうと想像していた十月十日の妊娠期間、そうか、子供を産むってのは、私の身体にとっては、たいへんなことなんだなと思い知りました。なんにも食べられなくなってからは、まわりの景色が灰色になったようです。世界が敵にまわったようです。ご飯を食べよう、と思うだけで吐くのです。
吐くのもそこまで頻繁になると技術が向上するらしく、そのうちにうまいこと吐いて、喉を痛めないようになりました。手慣れた職人さんみたい。あらよっと、吐いちゃうって感じ。いやほんと。
鼻の感覚、味覚も狂っているので、食事の味つけもおかしくなって、なにもかも調子外れの毎日でした。
1999夏 弱り目にたたり目
病院の産婦人科では、10回以上にわたって触診されたのですが(つまり子宮に指をつっこんで経過が無事かを診察するのです。おーこわ)ところがどっこい、ここの30代の男先生が乱暴者で、なにか人形でも診察しているみたいに、実に無造作に調べるのです。ぐぐぐぐ、ぐわー、いてー、くーっ!あまりの激痛に、うめき声をあげるあざらし。意に介さずといった風に、しらんぷりして触診する先生。激痛に涙がにじみます。子供でも出来ていなかったら、ほんとに、こんなとこ二度と来るかッ!と犬の遠吠えかますであろうあざらしも、妊娠中は金玉(失礼)取られたみたいに女らしくなってしまい、内股になってめそめそと泣くばかり。終わったあとも先生に頭を下げ「ありがとうございました」と深々とお辞儀……
あざらしのウソつき野郎!ああ、ちゃんと言えば良かったのに、先生の今後のためにも……。
いや、だってほんとに、診察のあと血がでてた……。あとで聞くと、産婦人科で一番痛い先生に当たっていたとのこと。ぐわ!この先生に触診されたあと、泣きながら出てきた患者さんを三人ほど見かけました。おーこわ。
1999秋 出産
私の腹が大きくなるにつれ、腰痛がひどくなってきました。立っているのもしんどいほど痛むのです。足もむくんでしまい、靴を履けないほど巨大化しています。面白い……いや面白がっている場合ではなく、出産の予定日が近づくにつれ、心臓も苦しくなって、少し動くだけでも、はあはあします。ああ、つらい、つらいよ10ヶ月、妊娠は長い、長すぎる……。もう最後の方なんか、しゃがむだけで出産しそう。話は全然関係ないが、私のおばあちゃんは、産んだ子供の最後の何人かは家の前の玄関でしゃがんで産んだそうな。ばあちゃんホントか!?すごい話だーと思わず脱線したが、とにかくわたしは、もう二度と二度と妊娠しないぞ、誰がなんといおうともう子供は産んでやらん、根性なしと罵られようと、そう固く心に決めたのだった。ああ根っからの根性なし……。
そして、やはり、痛かった体験のなかでも、キングオブ、痛かった、といえば、やはり陣痛です。
陣痛は、初期の頃も結構痛いものなのです。陣痛が来たとき、すぐ生まれるのではないかとあせってしまいましたが、病院では慣れっこなのかもちろん少しも心配なぞしません。私はその時たいへん緊張していました。やっと子供に会えるという嬉しさもあったけど、そこではもっとも痛い体験が待っていると思うと、結構びびっていたからです。
出産日記 | |
そして……出産の前後に書いた日記を、皆さんに紹介したいと思います。公開することを前提としていない文章で読みにくいのですが勘弁してください。あまり気持ちのいい内容ではないので、血みどろなのが苦手な人はご用心を。
10月7日 夜中に、いつもより重い体調不良。気分が悪いなあと目を開けていると、となりで雄ちゃんがすうすう寝ている。
予定日は10月28日、まだかなり先の話だ。
部屋掃除もはかどらないので、ガラクタだけでも片づけ、大分きれいにした。
この部屋にあかちゃんを寝かせるのである。あまり汚くては病気になってしまう。
10月8日 吐き気と下腹痛。定期健診の日なので丁度良かったのだが、お腹の中でどうにかなっているのではと気がかり。
先生に診てもらったら、なんと、もう子宮が2センチあいているらしい。
痛みが来ているのも、むしろ良いことなんですよ、との言葉。
いよいよかと嬉しくなる。
多少痛くても元気な奴を産むぞ!と気持ちを励ます。
その帰り、喫茶店でケーキとプリンを3つずつ買い、お祝いで食べることにする。夜は、いつものように夕飯の支度をせず、小沼お母さんにチキンカツなど作ってもらう。おいしい。
いつ来るかわからない陣痛にそなえて、しっかり食べようと決める。
「入院の話なんかは出なかったのか」と聞かれるが、いつ陣痛が来るのやら、本人にもさっぱりわからない。
10月9日 一日経ったが、何のおとさたもなし。
夜になっても、そうひどい痛みもない。1時間の間に1回から2回、にぶい生理痛のような波があるのはあるのだが、これが陣痛?あまり痛くない感じ。
下着には褐色の血がほんの少しだけついていて、これがおしるし?なにもかも心もとない。
「ひょっとして一週間くらいかかるかも知れないな」と雄ちゃん。
今日は日本対カザフスタンの試合が勝ったので、とても機嫌が良いらしい。ビデオやらテレビで飽きもせず分析をやっている。出産がサッカーとだぶらなくて良かったとしきりと言っている。
とにかく寝て待とう、と妙な気持ちでベットに横になってみる。
10月10日未明 夜中の1時頃、ずきんという痛みで目がはっきり覚める。
生理痛とほとんど変らない、下腹の痛みだ。これだ、と思うが時計を見て待ってみる。ほとんど10分おきに、正確なところでまたずきん、とくる。
ベットからはいだして、パソコンをやっている雄ちゃんに「来たかもしんない」と声をかける。
少し様子を見たが、10分感覚は続いている。少し速い時もある。初産婦はすぐには産気づかないと聞いているので、落ち着いて行動しようと思う。
病院でもらったしおりを取り出して、夜間の連絡場所に電話をかける。
応対にでた看護婦さんは、大して関心もなさそうな声で、じゃあゆっくり支度してきて下さい、と言う。やっぱり時間のかかるものなんだな、と思うが、雄ちゃんはじゃあすぐ行こうとすばやく支度を整える。服を着替えて忘れ物はないか考えていると、小沼お母さんが車の前まで見送りに来てくれる。
夜空はおそろしくはっきりさえて、明るく涼しげな星が満天である。
病院に着き、四階に向かうと、ナースステーションだけ明かりがついて、静まりかえっている。
診察室に通され、いくつかの質問と、下の毛の処理、触診などされる。その後、陣痛室に通される。先に入っている妊婦さんが、うめき声をあげている。私もお腹に赤ちゃんの心拍数と、母親の陣痛間隔を計る機械をつけられる。痛みがつらくなってくるが、身動きがとれない。動きたくてたまらない。
同室してくれた雄ちゃんが、時間がかかりそうだから、いったん家で寝てくるかな、と帰り支度をする。一人になるのは不安なので、雄ちゃんの上着を一枚置いていってもらい、服をかかえて過ごす。
となりの人も陣痛でつらそうである。静かなうなり声が聞こえてくる。
苦しい苦しい間隔の中、うっすらと夜が明けてくる。
朝、5分間隔にせばまった痛みに耐えていると、小沼お母さんが来てくれる。陣痛の間、手を強く握ってくれる。安心したせいか、急に間隔がどんどん短くなってくる。
あっという間に、3分が2分に、2分が1分になってくる。
もう息に力をいれずにやりすごすことが出来ない。
必死になっていると、雄ちゃんが到着。少し身体を触られるだけで、痛みが何倍にもなって堪えられない。少しでも触られたくないが、看護婦さん達があちこちを掴んで、手をつっこんでお腹の中を調べている。
何か大きなかたまりが下りてきた感じはしないか、と聞かれるが、激痛の他になにもない。まだだねと言っているのが聞こえる。
トイレに行けるかと言われ、陣痛の合間をぬって立ち上がるが、すぐに陣痛の波。なかなか便座に座ることが出来ない。ようやく尿をすませると、便座にねとっとした血の滴りが糸状に垂れている。
そのうち、大きなかたまりが足の間に下りてくるのを感じる。激痛で声をあげてしまう。
分娩室に通されることになる。
二つある出産用の台の奥の方へ座るよう指示を受ける。
もう歩くことが困難になっている。
台に座り姿勢をとるが、痛みのあまりすぐいきんでしまう。何度もいきんでしまう。
「小沼さん、一人で夢中にならないで」と冷静なかけ声が聞こえるが、もう身体がどうにもならない。陣痛の波はもうほとんどひかない。何か破裂したような感じがして、足元を生ぬるい水が飛び散ってあふれだすのを感じる。便も血も撒き散らしているのを感じながら、必死でいきみを止めようと、短い呼吸をこころみる。
「小沼さん、赤ちゃんの頭が見えてるよ」
「小沼さん、目をあけて、まわりを見て」
「そうそう、息をハアハアでのがして」
「深呼吸して、赤ちゃんに酸素あげて。赤ちゃん苦しがってるよ」
「ハアハアでのがして。いきまないで。」
「あと1、2回のがしたらいきんでいいからね」
「○○さん、赤ちゃんの頭押さえて、裂けちゃうから」
「楽になったでしょ、小沼さん」
「ハアハアでのがして。ハアハアハアハア」
「もう赤ちゃん出てるよ」
「出たよ、小沼さん」
「後産出るからね」
「力ぬいて、ゆっくり息して、ゆっくり」
10月10日午前3時 入院
10日午前9時50分 分娩室入り
10日午前10時11分 出産
初おっぱい
初めておっぱいをもっていくと、眉間にしわをよせている。
小さい目でちろっと見られる。
抱いてみて分かったのだが、手も足も赤く肌荒れしていて、老人のようにしわが多い。血がにじんでいる所さえある。
自分のご飯の食べ方がなにか良くなかったのだろうか。心配になる。
乳の飲み方は上手いと看護婦さんに言われる。
おっぱいを口にふくませると、いやそうに飲んでいる。
出産を終えて……中尾彬(そっくり)が出てきたおどろき。 | |
あとでおぬまさんに聞くと、「出産時のあざらしは、小沼おかあさんとオレを口汚くののしりながら分娩室に入っていった」とのこと。そんなことちっとも覚えてない。ああ、恥ずかしい。
もうあんな苦しい体験はしたくないなと思いつつ、終わってみれば、どこにでもある話、ありふれた光景のうちのひとつなのでしょう。と、しみじみとわが娘を抱いて顔を眺めるあざらしです、
いやー、しかしこんな下品な体験まで書いちゃって、うちの親が見たら仰天するなあ。ここに訪れてくれた皆さんだけにひそかに公開することにして、まあここだけの秘密といたしましょう。それでは、長い文章にお付き合いいただきまして、ありがとうございました。これにておしまい。
先日、お世話になっている恩師の主催するパーティーで、久しぶりに中央線のキャンディさんに会いました。キャンディさんは、この月刊文文でエッセイを発表している四人のメンバーのひとり。相変わらず動きの読めない人で、気がつくと私のそばにいて、ジュースをすすっている様子。「この前の『ロミオの心臓』読みましたよ」とあざらしが話しかけると、「ほんとに?」と、嬉しそうに顔をゆるませていました。お変わりなくなによりです。 そして、ジュースを飲みおえたあと、不思議なことをあざらしに言ったのです。「今ね、文章の書き方を、書き方教室の先生のところに習いにいってるんだ」 「文章の書き方あ?」 「そうなの(真面目に)その先生にね、前回の『ロミオ』持ってってアドバイス受けたんだ」 「そうなんですか……」(どんなアドバイスだ?) 「先生が言うには、もっと漢字を減らさなきゃダメだって」 「なぬ?」 「漢字が多すぎるって」 「先生がそう言ったんですか?」 「先生が言うには、『私の言うとおりにしていれば、絶対面白い文章になる』って。まずは漢字を減らしなさい』って」と真面目に悩んでいる様子のキャンディさん。 キャンディさんの文章ってそんなに漢字多いか?普通だろ?!ぽかーんとするあざらしに、「今も通ってるんだ」と打ち明けるキャンディさんの目はマジだった。 その先生あやしいぞ!だまされるな、キャンディさん!キャンディさんの伝説は、まだまだつづく…… |
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晴天 サッカーに胸をときめかせているおぬまさん。地上波の放送にあきたらず、ついに有料放送にまで手を出してしまって、明日取りつけ工事がやってくるらしい。やっちまったか……。当人はこれから毎日サッカーが見れるとウキウキしている模様。現在は「オズアドレス」の正式版発表にむけて、ラストスパートにとりかかっている最中です。 一方のあざらしは子あざらしの相手をしつつ、ペン習字に熱中している様子。「おぬま」とでかい字を書いては、おぬまさんに見せてよろこんでいるくだらない毎日です。子あざらしは、一人で部屋をうろついては、落ちているゴミを食べたりして遊んでいます。 |
あざらし、おぬまさんに怒られる
9月は忙しくなりそうだ。車の免許をとることになったのである、おーこわ。
忙しくなるまえに、次回分のブンブンを書いておかなくては……。さて次号のサルモノは「おっさんとの出会い(パート2)危険なおっさん」をご紹介したいと思っています。発表は来月上旬に予定しています。どうぞお楽しみに!
あざらしの去る者は追わず Copyright(C) 2000 北海のあざらし デザイン: おぬま ゆういち/北海のあざらし 発行: O's Page編集部 |