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ロミオの心臓
第1回
面接は苦手だ

私を見て!あなたを見て。駆け引きしまくり真剣勝負。面接は恋愛だ。

 専門学校卒で資格のない私、キャンディはたいした会社は受けない。(というか受けられない。)
 他にやりたいことがあって食うためにバイトをしているが、元来怠け者の私は、なるべく面白そうでなおかつ楽そうな所を目ざとく探すのだが、どんな仕事探しでも避けて通れないのが面接である。
 実はこう見えても人見知りするわ上がり性だわという私、面接は大の苦手。
 受けたことがない人はいないと思うが、面接っていろいろ聞かれるものだ。
 長所や短所に始まり、趣味や好きな球団などなど……。なかでも可笑しかったのが、最近「彼氏はいますか?」と聞かれ、(きっと積極性をみているのかな)と思い正直に「います。」と答えたら、これは失敗。先方はできちゃった結婚されたら困るので聞いていたのだ。とほほ……時代についていってない私。
 あと凄かったのが質問の答えに訳の分からないことを言う面接官。例えば「ここの給料でやってけますか?一人暮らしですよね。」と聞かれ、「はい。月12万位でやってけますので。」と答えたら、「そんなはずないでしょう。僕、家賃と駐車場入れたらもう10万ですよ!」……その後、一応私の生活レベルをお話ししたが、高そうなスーツのちょい年下と思われる彼は終始不機嫌で、勿論、そこは落ちた。友達の話を聞いてもこの手の話は結構あり、原因は失礼な面接官(当然)の人間性にあると思う。
 かくいう私も27才の時、実は面接官だったことがあるのだ。
 小さな事務所を任されていた私はその日アルバイトの面接に予約してきた10人を待っていたのだが……。何と、来たのはたった一人……。選びようがないのでその人に決めた。初めての経験なので少しほっとしたが、こちら側で思うことは、人を選ぶって難しいし、腰低く入って来るバイト希望者が何十人といたら何となく生奪権を持ったプチ神様な気分で自然横柄な態度に出ちゃう人もいるんだろうな、と思う。
 ちなみにそれに対抗するため、かつての私の方法は、(多分これが基本)面接官のタイプを見抜き、向こうの気に入る女の子を素早く演じ、自分の歴史の中から不都合なことを言わず、殊更美化することだった。そんな時、自分の演技力に(私も女なんだな)と実感する。多少なりとも私を知っている人が見たら大笑いし、大嘘つき呼ばわりするだろうが……。ただし履歴書を偽るのは法に触れるので、あくまでも性格やら趣味やらをいいように言う。しかしその方法でうまく潜りこんでも、演技も長く続かなかったり、セクハラにあったり、つまりは、自分を偽っても仕方ないことに気付いた結果、ここ数年は「半ばこんな自分で良ければ」と開き直り、戦法を変えたのだ。
 これが私には正解で、不思議と見つかるときは見つかるし、以前よりも楽しく長く勤めることができるようになった。
 ある占い師は「どんな人とつきあえますか。」という質問に必ずこう答えると言う。「今のあなたにあった人。」つまり、同じステージでしか恋愛関係にはならず、いろんなことに努力して自分を磨けばそういう人とつきあえるし、それなりならそれなりだということ。これは仕事探しにも当てはまる。
 しかし、恋愛に魔法がかかることがあるように、仕事にも例外はある。
 ダメだと思ってもタイミング良く受かったり、苦労して入ってもリストラされたり、大した所じゃないのに思わず給料が上がったり、まさに男選びと同じ醍醐味だ。
 予告で偉そうに必勝法だのと言っていたけど、六月いっぱいで派遣を切られ必死に職探しをしていた31才の私は思う、結論、そんなものはない。(あったら私に教えて状態。)せいぜいフロムAに書いてあることを守るくらいじゃ……と思ってみたものの私もだてに31年生きてないので必死に考えるが、結局のところ、面接とは相手(面接官そして会社)との相性の善し悪しに他ならず、やはりどこか恋愛のようなところがあるのだ。
 ところで現役職探し中の私はというと、多分、今まででいちばん楽な、いや素敵な面接を経験した。専務自ら駅近くまで迎えに来て下さり、これが私より年下と思われる今風な身なりに目に力のある男。(苦手なタイプだ……)と思っていたら、会社までの数分を歩きながら話し掛けてくる。自然私のことに話が及んだので、履歴書を出そうとしたら、その専務はクールに手を振り、「過去は関係ありません。」……かっ、かっこええー。その上「他は受けましたか?」「いえ。」「じゃあもう受けなくて結構です。」一瞬、嬉しさに膝からくずれそうになりながらどうにか社に着いた私。着く前に決まるのは初めての経験。そこで仕事の説明をしてくれた部長曰く、30過ぎの私の年令に触れ「若けりゃいいってもんでもないですから。」
 やはり、面接って恋愛に似ていると思うがどうか。苦手なはずである。

中央線のキャンディ(2000.7.16)

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デザイン: おぬま ゆういち
発行: O's Page編集部