第6回
プレゼント
クリスマスが近づき、キャンディこと私を悩ませているのは他でもないプレゼントだ。
その人の欲しいものを的確に贈るのは難しい。
かといって事前に何が欲しいか聞くのも味気なく、まるで物々交換のようで嫌だ。
私が男に生まれていたら手編み系は何か念がこもってそうでもらいたくないが、今つきあっているオトコはそういうのに愛情を感じるのだそうだ。(つくづく価値観が合わないが大丈夫だろうか)私はこう見えて不器用ではないので何か編もうとは思うが、本音は面倒臭い。下請けがあるなら出したい気分だ。
しかしこうやって頭を悩ませていられるのも、贈るオトコあってのこと。過去のいくつかの寂しい冬はどうやって暮していたのか、人間お腹一杯になっると空腹を忘れてしまうのに似ているが、今こそ初心に返るべきだ。
というわけで、当時の私はどうやってこの街のざわめきをやり過ごすかということで、頭が一杯だった。
その頃の私は、稼いでいたにもかかわらず、忙しくて銀行に行く暇がなく、香港ナンバーワンの監督の最新作の最後の回にやっと間に合ったと思ったら、財布には今日の映画代と電車賃しかない。普段なら家に帰れればそれで問題ないのだが、その日、心を奪われたのは本編も音楽もだが、その美しいポスターだった。どう焼いたらそんな色が出るの?というような緑色の空がとても綺麗なのだが、持ち合わせがない。しかたなくあきらめて帰ったら、家の近くの本屋に何とそのポスターが貼ってあるではないか!少々迷ったが、若い男の店員に「ポスターをくれ」と頼んでみた。店員はまじめそうで感じ良く、先約はないので映画が終わったらくれると言い、私の電話番号をきいた。
しかし、その映画はロングランを続け、秋が過ぎ、冬になってもまだやっていた。
当然、私の元には届かず、その本屋を通る度に空の緑を眺めていた。
そして女だけのイブを飲んで帰った夜、留守電が。
イブの男の声に一瞬緊張が走るが、あの本屋からで「ポスターをとりにきて」と入っている。ズッコケつつも、「あの映画やっと終わったか。嬉しいけど、寂しい……」何か複雑な気持ちのまま、ポスターをとりに行った。店員は相変わらず感じ良く、金を払ったかのように、ポスターをくれた。
しばらくして、「ぴあ」をみたら、その映画は年を越してもまだやるそうだ……。
終ってなかったのだ。
ひねくれ者の私は「きっと大掃除でガラス磨かなくちゃいけないから、ポスター外したんだ」とか「誰からもプレゼントもらえなさそうだったから?」などと思ってみたものの、イブにわざわざ電話をくれた店員の気持ちを考えると、胸が熱くなった。私はあまり人に優しくされ慣れていないから、たまにこんなことをされると、どうしていいかわからなくなる。わからないが、それ以来、本はとりあえずその本屋でなるべく買うようにしている。
(2000.12.14)
ロミオの心臓 Copyright(C) 2000 中央線のキャンディ デザイン: おぬま ゆういち 発行: O's Page編集部 |