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ロミオの心臓
第5回
詭弁家ゴーゴー

 私は白黒ハッキリつけなければ気が済まない。
 それゆえグレーの存在を認めろというオトコ(彼氏)ともよくケンカになる。
 最近も大ゲンカしたばかりで、気落ちしていた私に追い打ちをかけるような出来事があった。

 その日は朝からとことんツイてない日で、まず中央線お約束の人身事故。動かない電車に嫌気がさし、総武線に乗り換えようと隣のホームに移った途端、走りだす中央線・・・。あ然と見送っていると、追い打ちをかけるように、頼みの綱の総武線も遅れているとの放送。
 そんなこんなで、やっと新宿に辿り着き、山手線に乗り換える。
 事件はここで起こった。

 ホーム一番前に並んでいた私はドアぎわの空席をなんなくゲットできた、いや、できそうだった。さあ座ろうとしたが、リュックが引っ掛かり、おろすのに一瞬手間取った瞬間、年配の女性(50代〜60代位)がその席を取ろうとした。しかし私は座ろうとアクションしていたし、何より脚がぴったり席についていたので、その女性はかなわず、歩き出した。私はかなり驚いたと同時にムッとした。それは相手が無言だったからだ。一言あったなら・・・、と思っていたら、私の隣の隣の若い女性が、先程の年配の女性に席を譲った・・・のだ。私は座ったまま固まってしまい、激しく動揺した。目を閉じたら、この事態から逃げていると思われると思い、必死に目を開け、自分を正当化した。今までの電車で出会ったずうずうしいおばさん達のことやある新聞で見た投書などを思い出して。
 その投書は「電車でお年寄りに席を譲りましょう」ということに対しての若い女性のものだった。その女性は毎朝、痴漢よけや自らの健康のため、早くから並び席を獲得していて、座りたければそうするべき、というものだった。
 とりあげた記者もこの意見には冷水を浴びせられたようで考えさせられた、と書いてあった。

 私はその意見に賛成だ。そう、座りたければ電車一つ見送ればいい、と意を強くした時、新大久保の駅についた。元々、この駅は人の乗り降りが少なく、たった一人、杖をついたおじいさんが乗ってきた。嫌な予感がする私に向かって、おじいさんは歩いてきた(ような気がした)。私は先程の思想を確立したばかりで、今さら席を譲るのも周囲に対して負けな気がし、動かなかった。
 すると、あろうことか今度は隣の若い男が席を立ち、そのおじいさんに譲った、のだ。

 もう私に逃げ場など残されていない。

 車内中が私を「人でなし」と非難しているような気がして、事実、端から見れば立派な「人でなし」で、運が悪かったと思うほど人間浅くないつもりの私は、“答え”を必死に探してホームに降りた。
 私は悪いけど悪くない、悪くないけど悪い。どちらなのかもわからず、白黒つけられないものをつけようとし、まるでオトコとのケンカの勝敗のようだ。

 どうやらタイミングにより人は善人にも悪人にもなるらしいが、それがオトコのいうグレーなのか。仲直りできればいいが。

中央線のキャンディ(2000.11.15)

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ロミオの心臓 Copyright(C) 2000 中央線のキャンディ
デザイン: おぬま ゆういち
発行: O's Page編集部