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いそのカツオをブッ殺せ! 新捏造時代
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二〇〇三年三月十九日日本時間午前十時十五分、アメリカ合衆国第四三代大統領ジョージ・W・ブッシュはイラクへの武力攻撃開始を全世界に向けて宣言した。「大量破壊兵器」を始めとして根も葉もない疑惑と脅威を次々とでっち上げ捏造した挙げ句、国連安保理で承認決議が得られないとなるとそれを無視し、根拠が希薄な1441決議を強引にこじつけて開戦に踏み切るという暴挙に出たのだ。

テレビ画面に映ったブッシュのインチキな目つきと不誠実な口元を眺めながら、オレはこれまで自分がやってきたことがまさに間違いではなかったと確信したのだった。







 最初に捏造に手を染めたのは大学二年生の時だった。サークルの勧誘にかこつけて新入生の女の子とイッパツやってやろうと企んだオレは、サーフィンとスノーボードの同好会という名目で「サーフ・アンド・スノー」という名前からしていかにもおあつらえ向きのサークルをでっち上げた。学生課に提出する書類の名簿覧には二・三人の友達から名前だけを借りて記入した。立て看板はクラブハウスの倉庫にあったどこかのサークルのものをこっそり拝借してそれらしいものに作り替えた。勧誘のテーブルでは毎回適当な友達に頼んでそれらしく見えるように一緒に振る舞ってもらった(適当といっても、新入生の女の子の警戒心を和らげるために必ず一人は女の子の友達を周到に用意した)。わざわざそこまで手の込んだことをしなくても、既存のサークルに所属して正々堂々と勧誘すればいいではないかと批判されるかもしれない。しかし、それだと先輩や何やらにいらぬ気を遣わなければならないし、第一実際にそれなりの活動に参加しなければならない。それだと本末転倒だ。オレの意図したところは活動のためのサークルではなくて勧誘のためのサークルなのだ。だから実体を伴わない架空のサークルが一番手っ取り早いのだ。要は新入生の女の子が興味を引きそうな名前をつけてそれに食いついてきた尻軽たちを「新歓」という口実で飲みに誘って無礼講でへべれけにさせてなし崩し的にホテルに連れ込んでイッパツやれさえすればいいのだ。目的のためには手段を選ばず─そう、オレはまさに「新世界秩序」の王道に足を踏み入れたのだ。

 さて、その捏造サークルにまんまと引っかかった哀れな子羊、いや、子羊と言うよりも雌豚と形容したほうがふさわしい、その女の子は豊満な肢体の持ち主で、特に異常に発育したお尻とオッパイが大いにオレの食指を動かした。彼女の他にも二人ほど集まったが、二人とも帯に短し襷に長し、つまりは雑魚だったので、その二人は他の友達に任せて(彼らはもちろん仕込み。しかしオレのおこぼれに預かろうというしたたかな企みがある)オレは彼女に一極集中した。

 「ねえ、これから二人でどっか別の所に飲みに行かない?」

一次会がお開きになってそれぞれがおもむろに店の外に出始めたところで、オレは彼女にそっと耳打ちした。

「えーっ、別にぃ…いいですけどぉ…」

俗諺どおり、彼女はオッパイがデカイわりにおつむのほうはからっきし弱そうだった。これはいよいよおあつらえ向きだった。オレは友達二人に目配せし、作為的にさりげなく彼女と二人で集団とは別の方向に消えていった。



 「えーっ、行きたいでーす!」

大学の近辺にある「おいしいお店」に今度一緒に行こうなどとお決まりの話題で無理やり盛り上げながら、オレはしきりに彼女にお酒を勧めた。昨日までルーズソックスをはいていたような小娘と話がかみ合わないのは最初から覚悟していたので、その代わりガンガンお酒を飲ませてさっさと酔っぱらわせてしまおうという魂胆だった。しかし弱ったことに、彼女は一向に酔っぱらう気配がなかった。

「お酒強いね」

「はい。強いです」

オレが半ば呆れ気味に言うと彼女はあっけらかんと答えた。

“チクショ! 意外に可愛げのない奴だな!”とオレはオレは密かに舌打ちをした。それでも、決して隙がないわけではなかった。ただし、このまま飲み続けていても埒が明かない、というより、オレのほうが先に酔いつぶれてしまいそうな勢いだったので、仕方なくオレは強硬策に打って出ることにした。

「ところで今彼氏いるの?」

「えーっ? 今はいませんけど…」

「どれくらいいないの?」

「えーっ? 一年ぐらいですかぁ…」

「淋しくない?」

「うーん、淋しいといえば淋しいかもぉ…」

「オレとつきあわない?」

「えっ?! そ、そんな、急に言われても…」

「とりあえず、出よう!」

オレは有無を言わせず彼女を店の外に連れ出した。すでに終電の時刻は過ぎていた。ここまで辛うじてではあるが細工は粒々できていた。あとは仕上げは上々といくのみだ。

「あぁ、どうしよう…もう終電なくなっちゃいましたよねぇ?」

おあつらえ向きの台詞を彼女がつぶやいたので、オレはすかさず言った。

「じゃあ、ホテルで休まない?」

「えっ?! でもぉ…」

いきなりの核心をついた誘いに、さすがに彼女はかなり動揺しているようだった。しかし、相手の事情などおかまいなしにこちらの都合だけで一方的にごり押しするのが、まさに新世界秩序の典型なのだ。ちなみにここでのポイントは、「ホテルに行かない?」とか「泊まらない?」とかではなく「休まない?」という言い方で誘ったことだ。前者だと誘う側の主体性が強調される、つまり下心が透けて見える言い方だが、後者だとそれが若干薄められ、幾分か相手のことを気遣っているニュアンスが含まれるので誘われる側の警戒心を解きやすい。

「どのみち始発までどっかで時間を潰さないといけないわけだし、だったらホテルでゆっくり休んだほうがいいじゃん! それにキミを夜中に独りぼっちにしてオレだけ帰るわけにはいかないよ。遅くまでつきあってもらったオレの責任もあるし」

それならタクシーを呼んで責任を持って彼女の自宅まで送り届けてあげるのが筋ではないかとツッコまれそうだが、そのような筋の通った行動は「新世界秩序」の構想に入っていないし予算にも含まれていない(ただし、彼女が一人暮らしであれば話は別。そうなると自動的にタク送も政治日程に上り補正予算に組まれる)。そしてオレのインチキな説得工作に、彼女の顔色が動揺から悩みと迷いに変わりつつあった。

「ねっ、休もうよ!」

そう言ってオレは彼女の右手を両手で優しく握った。

「何もなければいいですけどぉ…」

「えっ? どういう意味?」

「何も変なことがなければ…」

「変なことなんて何もないさ!」

「ホントに、ホントに寝るだけですかぁ?」

「えっ? だって他に何があるの?」

こうしてオレは彼女をホテルに連れ込むことに成功した。



 「何も変なことしないって言ったじゃん!!」

ベッドに横になるなりオレが彼女に覆い被さったので、彼女はかたくなに肩と股を強ばらせて抵抗した。やはりまだまだ世間知らずの小娘だった。「何もしない」とはああいう時と場合では全く逆の意味になるという常識というか公式が彼女はわかっていなかった。ここは一つ世の中の厳しさを身を以て知らしめてやるべきだろうとオレは「無限の正義感」に駆られた。

「そうだね。何も変なことはしないって言ったね。けど、エッチなことをしないとは言ってないからね!」

そう言ってオレは再び彼女に覆い被さった。やってもいいとは明文化されていないがやってはいけないとも明文化されていない。ゆえに時と場合によってはやってもいい─つまり、いわゆる「けんけつ説」もしくは「隙間発言」を持ち出してオレは自分の非人道的行為を正当化した。

「そんな、だって寝るだけだって言ったじゃん!!」

彼女は胸元と股間をかたくなに封鎖してオレの公約違反を訴えた。

「そうだね。寝るだけだって言ったね。だからこうやって二人でベッドの上に寝てるじゃん!」

今度はいわゆる「解釈改憲」で突破口を開こうと、オレは彼女のそこに迫った。

「ねっ、お願い。キスだけだから。キスだけならいいでしょ?」

そう言ってオレは彼女の唇に自分のそれを強引に重ね合わせた。

「イヤッ!」

かたくなに顔を背けて必死の抵抗を試みる彼女だったが、そのうち、

「じゃあ、キスだけだよ」と言ってオレに向き直った。二の丸・三の丸をあえて捨て石にして時間を稼ぐことで本丸の陥落を阻止しようという彼女なりの背に腹は代えられない政治判断かもしれなかったが、オレにかかればそんなのはまだまだ大甘だった。オレは彼女の唇を奪って舌を絡めると、すかさず彼女のスカートの中に「神の手」を忍ばせた。

「もぉう!! キスだけだって言ったじゃん!!」

「そうだっけ? 記憶にないなぁ…」

けんけつ説でも隙間発言でも具合が悪いときは、ひたすらごまかしすっとぼけて既成事実を積み上げる。そうしていつの間にか外堀を埋めてしまい、最後に仕上げとして悠々と本丸に手をつける。これこそまさに新世界秩序の、いや、古今東西の「帝王学」そのものなのだ。

 そんなこんなでオレのなすがままにされながらしばらくは無駄な抵抗を続けていた彼女だったが、オレのツーフィンガーが彼女の秘所を濡らし始めたところでついに根負けしたのか、それとも自分の甘さを悟って腹をくくったのか、それとも本当に感じ始めたのか、

「もぉぅ、わかったから、どいてよ。服脱ぐから」と、今までの必死の抵抗がまるで嘘のように自分からあっさりと脱ぎ始めた。あとは露わになった彼女の中核にオレのちはやぶるバンカー・バスターを一発お見舞いしてやるのみだった。

(リアル)まっこい34
2005.5.16


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デザイン: おぬま ゆういち
発行: O's Page編集部