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ロビ太のメディア汁のカス
ロビ太の脳味噌しぼりたて!No.13

えー、勝手に新シリーズみたいなことしちゃったりします。その名も『メディア汁のカス』。『絞り立て』に続きまたもや汁系。そう、汁は人生の基本です。で、この汁では何するかっていうと、ロビ太的メディア考をおっぱじめます。いや、でも、「〜考」なんてそんな大げさなもんじゃないな。それほど考えても無いし。所詮カス程度なんで、鼻くそほじりながら、魚の目削りながらでも読んで下さい。気まぐれに始めた挙句、気まぐれに終わったとしても怒らないでね編集長。目標は毎月更新。志し低く、はじまり。

第1回 サブリミナル的サブリミナル考

サブリミナル、サボリオナる、さっぱりミノル・・・ってこりゃ伝言ゲームだ。しかも苦しい。え〜、サブリミナル効果というモノをご存知だろうか。ここのところ、マスコミで頻繁に取り上げられていたので聞いたことくらいはあるだろう。あの、「視聴率操作問題」ですっかりダークなイメージがついてしまった日本テレビが起こした、『マネーの虎』でのサブリミナル事件。これがまた、なんだか大騒ぎになっている。総務省までもが出てきちゃって、今年の3月12日、日テレに対して厳重注意。んで翌日の3月13日には、日本民間放送連盟(民放連)とNHKに対して、サブリミナルに関する新たな基準作りを要請する文書まで出しちゃいました。こうなるともう日テレが国家を揺るがす規模の大犯罪集団みたいで、ダークの上塗りてんこ盛り。でも、これってどうなの〜?てのが今回の話。さて、本題に入る前に簡単にサブリミナル効果について説明しよう。それくらい知ってらぁ〜って人は、トイレ休憩どーぞ。

■ で?サブリミナル効果って何よ

サブリミナル効果とは・・・通常、人間が認識できない程の短い画像を映像中に挿入する事で、見るものの潜在意識に働きかけるという手法である。サブリミナル効果が広く知られるようになったのは、1957年、アメリカの映画館で行われた実験からだ。映画の中に、「喉が乾いた?コカコーラを飲みなさい」「ポップコーンを食べなさい」という文字を、ほんの1コマだけ挿入する、ということを何度か繰り返したのだという。1コマといわれても、映像制作に関わっていない人にとっては、どれくらいだかあまりピンと来ないだろう。そもそも映像ってものは、静止画の連続からできている。子供の頃、教科書の端っこに書いたでしょう、パラパラ漫画。アレよ、アレ。映画の場合、1秒間=24枚(コマ)の静止画をパラパラとやることによって、動いているように見せているわけだ(ちなみにテレビの場合は1秒間=30コマ)。つまり映画でいう1コマとは、1/24秒=約0.04秒ということになる。わずか0.04秒「コーラを飲め!」などという文字を出されても読めるわけが無い。それどころか、文字が出たということに気がつくことすら出来ない。ところが・・・上映終了後、飛ぶようにコーラとポップコーンが売れてしまった!これはどうしたことか?なんと、0.04秒現れたメッセージは、本人が意識しないままに目から脳へと伝わり、その潜在意識に働きかけたのだ。かくして人々は、「なんとなく」のどが渇き、「なんとなく」ポップコーンが食べたくなり、思わず買ってしまったのだという。

この話が眉唾だという話もあるし、サブリミナル手法自体、一体どれほどの効果があるのか実証されていないとも言われているが、現にアメリカの放送業界ではサブリミナル手法を使うことが禁じられている。イギリスでも放送法で禁止され、EU指令でも同様に禁止。それを考えるとあながち眉唾ともいいきれない。また、アルコール依存症患者や恐怖症患者の治療に使われているという話もあるらしい。(ただしこれは、ダイエット効果や各種メンタル系疾患の治療効果を謳ったサブリミナルCDやビデオの宣伝文句にすぎないのかもしれないが)

■ サブリミナル効果で起こす米倉涼子ファン1億人計画

サブリミナルが本当に効くのであれば、これは凄い事だ。例えばジョージアのCM。宝塚ばりの男装でこれ見よがしに張り切って踊る米倉涼子・・・あれを見るとどうにも萎えてチャンネルを変えたくなる。そこでサブリミナル!彼女を温かく見守る田舎臭いオバチャンの姿を挿入。吹き出しには「頑張ってね」・・・これだけでもう十分である。視聴者は涼子のサブイ踊りにうんざりしながらも、なぜだか温かい気持ちに包まれ「彼女も頑張っているんだなあ・・・」と闇雲に応援したくなる。応援ついでにジョージアも買うし、『奥様は魔女』のサマンサ役はちょっとどうかなぁと思いつつも「彼女は彼女なりに頑張ってるんだからいいじゃないか。親孝行な子だしね」などと頷いて、知らず知らずの内に”涼子ファン”になっているのだ!サブリミナルってすごい。こんな風に活用すれば商品も売れるしイメージアップにも繋がるし素晴らしいことである。

っておい!どこが素晴らしいんだ。そんなことが許されてなるものか。視聴者自身の価値観は無視されて、強引に刷り込みが行われる。本人の望むと望まざるとに関わらずだ。そんなの人権侵害以外のナニモノでもない。テレビという巨大なメディアを使ってのマインドコントロールである。だいたい、何が嬉しくて米倉涼子ファンにならねばならんのだ。せめて釈由美子にしてくれ。それよりもアヤヤ・・・いや、今なら宮崎あおいかな。うーん悩む。なんて悩んでないで話を元に戻そう。実際、米倉涼子のファンが増えるくらいだったら大した問題では無い。頬骨が立派な女性が市民権を得たっていいし、本当に親孝行なのかもしれないし・・・いや、親孝行はどうでもいい。いいから話を戻せ早く!
え〜・・・サブリミナル効果でタレントのファンを増やすくらいなら可愛いものだが、もしこれを政治に応用したらどうなるか?そりゃ言うまでもなくヤバイ。でもそんなふざけた事する政治家なんているはずないよね〜と思いたいが、いたよな、そういえば。

■ GO-GO-ブッシュ!

ほんの4年前のことだから、覚えている人も多いのではないだろうか。2000年アメリカ、現大統領ブッシュとゴア元副大統領の大統領選。ブッシュ陣営が流したCMの中にそれはあった。ゴアの政策を非難する部分に「卑劣な人物、裏切り者」などの意味を持つ「RATS」の文字が1/13秒間、大きく浮かび出るというサブリミナル効果が入れられていたのだ。自身のイメージアップに使うならまだしも、敵のイメージダウンに使うところが、ホントにもう性悪。
これを作ったのは政治広告界のベテラン・プロデューサー、アレックス・カステラノスなる人物。この舌を噛みそうな名前の男は過激な広告作りで知られ、以前にもサブリミナル効果で名をあげている。そちらは1990年の共和党保守派のジェシ・ヘルムス上院議員のキャンペーン広告で、アフリカ系アメリカ人に対する恐怖を植えつけるようなサブリミナル映像を使ったというのだ。これがアメリカ政治史上、初のサブリミナル広告であるとかなんとか。まったくもう、二回もやるなよ。バカの一つ覚えって言われちゃいますよ!
でもアメリカってサブリミナルが法律で禁止されてるんでしょ?と思うんだけど、どうやらその禁止対象は「放送局」に対して。放送局がそれに違反したら放送権の剥奪もありえるっていう厳しい話らしいが、今回のような場合CMを製作した彼らは罰則に問われないんだとか。なんだそりゃ。でもまあ、こんなことしちゃうとマイナスイメージで人気も落ちるだろうしあんまり得するとも思えない。ばれないようにコッソリやってみたって、世の中、誰かしらが気がつくもんだ。やるだけ損。無駄。・・・とも思うんだが、ブッシュは当選しちゃって今に至る訳ですね。これがサブリミナルCMの効果だったら恐ろしい。ま、確かめようも無いけどさ。
そういえばブッシュは今年の大統領選に向けたCMでも、9.11テロの映像を使ったってことで非難を浴びている。サブリミナル効果でこそ無いが、いずれにせよ姑息なCMがお好きなようだ。
さて、そろそろ日本テレビが起こした今回のサブリミナル騒動に話を移そう。

■ 「あの!」日本テレビが!?「また!」やっちゃった!?

なんだかもう、それこそ鬼の首を獲ったように各局・各メディアがお祭り騒ぎ。
「視聴率操作の日テレが、今度はサブリミナル疑惑!」
「危ぶまれる放送倫理!」
「視聴者への裏切り行為!」
「チェック体制の見直しが急務」
「日テレ、反省はどこへ!?」
あー・・・はいはい。わかったよ。わかりましたから。で、実際、どんなサブリミナルだったっつーわけですか?現物見れないんでニュースソースを集めてみた所、こんな感じらしい。

冒頭のオープニングシーンで、セーラー服姿の女子学生が鞄から札束をつかみ出す。そこへ、番組タイトル「マネーの虎」が重なり、本編に入る。その瞬間、効果音とともに画面が白っぽくなり、一瞬セピア色に変わる。このとき0・2秒(6コマ)だけ、1万円札の福沢諭吉の顔が現れる。

ん?・・・んーと・・・6コマ?・・・あのう、0.2秒もあれば、普通に「見える」範囲だと思うんですけど。最初に例にあげた「コーラ飲め!」は0.04秒。ブッシュの広告だって0.07秒のサブリミナルだ。それがナニ?0.2秒?桁が違うよ桁が。あまりにも長すぎるんじゃないのぉ〜?しかもわかりにくい文字なんかじゃなくて、皆さんおなじみの、諭吉っつぁんの顔。諭吉っつぁんが6コマ出れば、「潜在意識に働きかける」どころか、顕在意識で見えますって!これがサブリミナルって言えるんでしょうか。ただのフラッシュ的編集としか思えない。しかも、番組本編ではなくオープニング映像だ。オープニングっていやあ、どこの局でも、どんな番組でも、カットの早い編集が圧倒的に多い。色んな映像チャキチャキ入れてエフェクトかけまくって、映像重ねたりして。最近は特にCG合成まで使っちゃうからそりゃあんた、めまぐるしいもんですよ。数フレーム単位の細かい編集なんてザラ。例えばね、本編中の、挑戦者を募る告知の間にお札をイメージする画像を入れ込んだっていうならまだ訳がわかる。視聴者に大金のイメージを刷り込み、『俺も金が欲しい!挑戦したい!』という気にさせるのだ。番組への興味を煽り、視聴率アップに繋げる・・・これならいかにもサブリミナル効果なわけで、厳重注意もうなずける。ま、この場合も6コマじゃなくて、あくまで「認知できない短い画像によって」でなくちゃ意味ないけど。結局これってただ福沢諭吉をイメージカットとして使ったってだけの話じゃないか。

この中途半端極まりない『マネーの虎・サブリミナル事件』について、某大学の教授(メディア諭担当)が某紙に出したコメントは以下の通り。

「視聴率を上げる目的など、制作者が自らに有利な行為や感情を視聴者に誘発しようとしたわけではなく、遊び心からだと思うが、いかに弁明しようともサブリミナルに間違いない。制作者には編集技量を誇示したい気持ちがあったのかもしれない」

・・・・・・なんかもう、どうしよう。僕どうしたらいい?教えてよママ!ママー!!
なんて思わず錯乱したくなる。
「サブリミナルに間違いない」
・・・って教授ぅ〜!言い切っちゃってますよ!いいんですか?マジでいいんですか?後悔しませんか?
「編集技量を誇示したい気持ちがあったのかもしれない」
・・・って教授ぅ〜!全国の編集マンを敵にまわしましたね!?まあ聞いてくださいよ。誰だって作品を作るからには、カッコいいもん作ろうと思うでしょ?編集テク、見せたいでしょ?じゃなかったら編集マンなんていらないんじゃない?全カット5秒ずつ繋げっていうんですか?ロングカットが好きなNHKですら、いまどきそんな編集しませんよぉ教授ぅ〜!そりゃあ、短い編集だけがテクニックじゃないさ。そういうことが言いたいんじゃなくてね、メディア諭を研究してる教授に「編集テクニックを見せようとするなんて、さもしいですなぁ〜」みたいな言い方されちゃったら、もう、スタッフみんなやる気なくしちゃうっての。もういっそのこと、各局各番組のオープニングは全て真っ黒に統一するか?タイトルがポンっと白文字で出るだけなの。手抜きだって苦情が来たら、全部教授先生のせいにさせてもらおうじゃないか。

■ 贖罪の子羊は、黄緑色の妙な生き物であった。

私は別に日テレを擁護する気も無いし、この程度のエセ・サブリミナルならドンドンやれと言いたいわけでもない。総務省が、サブリミナルと思えないものに対して厳重注意したという事実も、批判しようとは思わない。なぜならば、現在定められている放送基準がとっても曖昧だから。

◇ テレビ放送基準 第8章(59) ◇
視聴者が通常、感知し得ない方法によって、なんらかのメッセージの伝達を意図する手法(いわゆるサブリミナル的表現手法)は、公正とはいえず、放送に適さない。

「じゃあ何コマからが良くて何コマまでがダメなの?」てのがちっともわからない。どこまでがダメなのかが明確でない状況だからこそ、中途半端なエセ・サブリミナルでも厳重注意せざるを得なかった。今回の件はいわば見せしめだ。だからなんかもう、仕方ない。運が悪かったと諦めよう。

それよりも問題は、各局各誌のあの態度だ。なんなんだあれは!まるで日テレだけが「視聴率の奴隷」で、「数字操作どころか今度はサブリミナルなんていう卑怯な手段を使いやがって!」みたいな完膚なきまでの集中攻撃。オイオイお前ら、自分とこの番組に似たような映像が無いって言い切れるのか!?
敢えて断言するが、んなことドコも言い切れるはずが無い。あの程度のフラッシュ的編集なら探せばいくらでもあるだろう。日テレ叩きの裏で、みな戦々恐々としながら自局番組をチェックしたに違いない。そんでやばそうなところはコッソリ差し替えたりしてさ。現に先月末、テレビ朝日がカミングアウトした。深夜アニメ『エリア88』の冒頭にサブリミナル的シーンがあったので削除したと。しかし一部のアニメファンを除いてほとんどの人が知らない。うまく日テレ叩きの影に隠れちゃった形だ。「黙ってて指摘されたらマズイし、今のうちにコッソリ発表しちゃえば目立たないだろう」ってなもんでそれがまんまと成功した感じ。どうやらこっちの方が『マネーの虎』よりもちゃんとしたサブリミナルだったみたいなんだけどね。結局、テレ朝の『エリア88・サブリミナル事件』は総務省からのオトガメも無く、地味〜に終わってしまった。
それでもマスコミは一向に構わない様子。なぜってそれは、相手がテレ朝だから。所詮テレ朝は視聴率も軒並み低いし、こき下ろしたってあんまり面白く無いのだ。敵が大きいほど面白いのが自明の理。地方のケーブルテレビでサブリミナル効果を使っているのが発覚したとしても、誰も報道しやしない。「あ、そうなの?」で終わりだ。視聴率NO.1の日テレだったからこそ、完膚なきまでに叩きのめされたのではあるまいか。そしてその効果あってか順調に視聴率を落とし始めている。10年間続いた日テレ神話が終焉を迎えようとしているのだ。
さらば日テレ!さらば黄緑色の君よ!
そうなると次のターゲットはおのずと決まってくる。マスコミってヤツは、なんかしら叩いてないと呼吸困難で死んじゃうからな。次に叩くべき目標は、もうあそこしかない。久々に覇権を取り戻そうとしている赤い目玉・・・そう、フジテレビ!その中でもよりによって、あの超人気バラエティ『SMAP×SMAP』がターゲットとなった!スマスマでサブリミナル効果が使われていた!?マジですか!?こりゃもう、大スクープだ!!なーんて鼻息荒くスッパ抜いて大恥をかいたのが、『週間現代』だったりする。

■ あいつの彼女もサブリミナル娘、隣のあの娘もサブリミナル娘♪

大塚美容整形外科の音楽で歌ってください。あのCMソング耳に残るもんで何気なく口ずさんじゃうけど実はスゴイ歌詞なんだよな。お姉ちゃんも、隣のあの子も、アイツの彼女も、みーんな大塚で整形した娘。ほのぼのした曲調と愛らしいワンコに騙されがちだが、なんかスゴイ。

それはさておき。『週刊現代』がどんな記事を出したかというとこれまたスゴイ。

「『SMAP×SMAP』にサブリミナル“洗脳”CM疑惑!」「番組打ち切りか!?」

いやあ、この見出し期待させるね!一体どんな卑劣なサブリミナルが入っていたんだろうか!?詳細を見てみようじゃないか。

問題のCMが放送されたのは1月12日。
英会話学校「ECC」のCM後、番組に戻る直前に化粧品「AUBE」のCMが挿入された。
さらに2月23日の放送の際にも同様の“サブリミナルCM”が流れた。

きゃーーーー!!恥ずかちぃ〜〜〜〜!!!!もう、読んでるこっちが赤面しちゃう!!イヤン見ないでバカン!!これって、ただのスイッチングのズレじゃないか。知ってる人も多いと思うが、これは技術上不可避な現象。各局がその地域だけで放送するローカルCMに切り替える際、1コマ〜2コマのズレが生じてしまう事があるという、ただそれだけの話だ。
要するにこういうこと。東京ではスマスマ本編が始まる直前までECCのCMをやっていて、関西ではAUBEのCMをやっていたわけだ。それが、東京から関西の回線へ乗り換えるタイミングがほんのちょっと早かったために、関西でそれまで放送していたAUBEのCMのラスト2コマが入ってしまったと言う訳。こんなもん、死ぬほどありふれた現象だ。それなのに一般人ならまだしもマスコミの人間が「番組打ち切りか!?」なんて鼻息荒くしちゃって・・・ああもう、恥ずかしすぎる。しかもこれ、特集記事だったらしい。大勘違いに気づかないまま、3ページにも渡って検証しちゃったなんて涙が出て来る。しかもご丁寧なことに1月からのスマスマを全部チェックしたらしい。CMまで含めたら10時間はあるだろう。それ全部、コマ送り・・・一体何日かかったんだ!不眠不休で血眼になりながら、幻のサブリミナルCMを追いつづけたその記者の労力を考えると、もう号泣。
ていうか、その時点で気づけよ。

まったくどうしてマスコミって奴は、一つ何かあるとあれもこれもと一緒くたにしたがるのか。どうせ探すなら、もっとそれらしい、ちゃんとサブリミナル効果を狙ったものを探せっての。そんなものがそうそう見つかるはずが無いって?ふふふふ。実は私は知っているんです。いえ、昔の話なんですけどね。誰もが知っている有名な番組で、まごうことなきサブリミナルが堂々と使われていたんですよ。ひっそりと、それでいて効果的に。

■ 『世にも奇妙な物語』におけるサブリミナル効果

深夜ドラマ『奇妙な出来事』がゴールデン昇格となり、タモリをストーリーテラーに始まったのがフジ木8の『世にも奇妙な物語』である。初回は1990年4月19日・・・って、もう14年も前なのかコレ!いやあ、時のたつのは早い。そりゃ歳も取るわ。
問題の映像は、その第二回。当時高校生だった私は、姉と二人でテレビの前にいた。突然だが、うちの姉は変な奴だ。三十路も大幅に過ぎたのだが嫁にも行かずに毎晩飲み歩き、そのくせアウトドア派でスキーだパラグライダーだと冬夏飛び回り、かと思えばカツオの一本釣りに行ってきただのイカ釣り漁船に乗って来ただの、もうよくわからない。あぐらをかいてジャックダニエルストレートをクイクイやりながら、釣りの仕掛けを作っている姿はもうオッサン。これだけ聞くとモテなそうなムサイ女を想像するだろうが、常に化粧もネイルもバッチリで、アッシーみたいな便利男を2名ほどキープしていたりするのでさらにわけがわからない。クリスマスには「デートの約束トリプルブッキングしちゃったよ〜どうしたらいい?」だって。んなこと知るかっつーの!しかもまんまとトリプルブッキングを捌ききり、どの男にも気づかれなかったという恐ろしさ。う〜ん美人って特だ。その上、巨乳!巨乳なんである!って2回繰り返す必要は無いんだけど。ともかく私は、その変な姉と二人で『世にも奇妙な物語』を見ていた。当時は姉も10代だったのでもちろんバーボン片手ではなく、菓子を食いながらまったりとみていたような気がする。
問題の話は『闇の精霊たち』というタイトル。岸田今日子演じる駄菓子屋のオバチャンが、客だか何だかに怖い話をするというやつなんだが、これが妙に怖い。岸田今日子のアップ自体が怖いって噂もあるが、あの語り口で淡々と”闇の精霊”の話をするのだ。ところがそのうち、駄菓子屋のオバチャン自身が人間ならざるもの・・・”闇の精霊”なんじゃないかと思わせる物語で、なんだかもう、怖い。私はドキドキしながら食い入るように見ていた。
「今、はいったね」
突然の姉の言葉に、私は思わず振り向いた。すると姉は
「ほら、見て見て見て」
姉にせっつかれるまま再び画面に目を移すが、さっきと変わらずただ岸田今日子の青白い顔がアップで映し出されているだけだ。何が見えるんだろう?とジーッと画面をみていたその時、また姉が言った。
「ほら、はいったでしょ」
ぞーっと一気に鳥肌。お姉ちゃん、怖い・・・ドラマも怖いが、なんだかわからんものが見えている姉のが怖すぎる。まさか幽霊が映ったのか!?姉には霊感があったのか!?などとビビっている私に、姉はこともなげに言った。
「巻き戻して見てみ」
実はこの時私たちが見ていたのはビデオだった。確か木曜日が塾か何かだったため、タイマー録画したものを数日後に見ていたのだ。私は姉の言う通り、ビデオを巻き戻すとコマ送りで見ていった。
するとどうだろう、岸田今日子の顔に重なるようにして、ガイコツみたいな半透明の仮面がパッと現れたではないか!記憶が定かではないが、確か2コマほどだったかと思う。岸田今日子の顔がズームインされるのと同じく、ガイコツ仮面も三段階まで大きくなった。2コマずつ、サイズを変えて3回。合計6コマほどのガイコツが挿入されていたのだ。学校で友達に聞いてみても、気がついている人はおらず、「ただオバチャンが怖い話してるだけなのに、やたらと怖かったね〜!!」と繰り返すだけだった。これぞまさにサブリミナルではないか!
もちろん、サブリミナルが入っていなくても怖い話だったことは確かで、皆が感じた恐怖がどこまでサブリミナルによる効果だったのかはわからない。しかし現に、サブリミナルは入っていた。そして、ほとんどの人が気づいていなかった。まるで完全犯罪だ!しかし・・・その完全犯罪にはただ一つの誤算があったのだ。わずか0.06秒しかない画像を見ることができる、変なヤツがいたという事実。
思えばすごい偶然の連続だ。偶然ビデオに撮っていて、偶然姉と見ていて、しかもその姉がどういうわけだかものすごい動体視力を持っていた!この恐ろしい偶然が、気づかれないはずだったサブリミナル挿入の事実を明るみに出したのだ!
なーんて一人盛り上がってみたが、気づいてた人大勢いたりして。しかもこの話、有名だったりして。・・・と思ってネット上を検索してみたが、どうにも出てこない。視聴率も良かったはずだから相当数の人が見ていたわけで・・・ファンサイトも多くあるんだから、ちょっとくらい「サブリミナル入ってたよね!」なーんて記述があっても良さそうなものなんだけど。そうすると逆に、私の話自体の信憑性が疑わしくなってくる。しかし、これを裏付けるエピソードがあるのだ。

確か『世にも奇妙な物語』第一回の放送だったと思うが、そのオープニングで”未来予知”が行われたのを覚えているだろうか。私はその回を見逃してしまったため、聞いた限りの記憶しかないのだが、それでもクラス中その話題で持ちきりになっていたため良く覚えている。放送を見た女友達の話によると、それは番組冒頭、ドラマが始まる前のおまけ的なシークエンスだったらしい。暗闇の中に4台のテレビ(?だったと思う)が並べられていた。そこへナレーション「どれか一つだけを、みつめてください」そのまま十数秒、画面はしんと静まり何も変わらない。と、突然左端にあったテレビがドーンと爆発!
彼女は驚愕した。なぜなら、自分が選んでみつめていたテレビが爆発したからだ。「私って超能力者!?」と思いつつ翌日学校へ来てみれば、皆が皆、同じように爆発したテレビをみつめていたというのだ。まさに奇妙。大騒ぎになるのも無理はない。今思えば、サブリミナル効果だとしか思えない。いずれ起こる爆発のシーンを、あらかじめ何コマか紛れ込ませていたのだろう。そんな画像が挿入されている事には誰も気がつかなかった。しかし、脳は気づいていたのだ。左端のテレビが爆発すると言う事を。

サブリミナル効果は実証されていないというのが定説ではあるが、これって有効だといえちゃう結果ではないだろうか。それとも、ガキだったからわかんなかっただけで理性をもった大人の目で見れば騙されないレベルのものだったのか?にしても、一つの教室単位でほとんどの生徒が同じ反応をみせたと言う事は、サブリミナルとしての役割を果たしていたように思える。これを思えば、0.2秒も入れられた『マネーの虎』の福沢諭吉をサブリミナルと呼んじゃうなんてバカバカしくはあるまいか。そういえば米映画『エクソシスト』ニューバージョンのサブリミナル効果も、笑っちゃうくらいあからさまなものだった。『世にも奇妙な物語』こそ、「あーーー!サブリミナルぅううう!」と鼻息荒くして言える代物だ。ドラマの質とは関係無しにサブリミナル効果で視聴者の恐怖感を煽り、怖いもの観たさの固定ファンを作る。そりゃ視聴率も上がりますよ!なんて卑劣なんだ!放送基準違反だ!がるるるる
しかし、放送基準で『サブリミナル的表現手法』を禁止したのはNHKで1995年、民放連では1999年。サブリミナル入り『世にも〜』が放送された時点では違法じゃなかったのだ。それにドラマにおけるサブリミナルは今となっては貴重だし、遊び心あるトリックとして評価こそすれ非難しようとは思わない。『世にも奇妙な物語』ではもっと多くのサブリミナル効果が使われていたかもしれない。私は前述の2つしか知らないが、心当たりのある方は、ぜひ月刊文文掲示板にご一報ください。いや、別に情報集めてどうしようってんじゃないけどさ。なんとなく。

■ サブリミナル的サブリミナル考

ああ、長々と書いてしまった。また編集長に「長すぎ」って怒られる。ここまで真面目に読んでくれた人、どうもありが・・・あり・・・・・・ぷっ

ふふ・・・ふふふふふ・・・・・・読んでしまいましたね、最後まで、読んじゃったね?

今回のタイトルは『サブリミナル的サブリミナル考』・・・すなわち、このエッセイの中にはサブリミナル効果がふんだんに散りばめられていたのだ!気がつかなかった?そりゃそうだ、サブリミナルなんだから。アナタは今、猛烈に甘い物を食べたいはず!!いいや、絶対そう!間違い無い!気のせいじゃないってマジで!甘い物って言い方が曖昧でも気にすんなって!ほら、ちょっとくらいなんか甘い物食べたいでしょ?いいから無理すんなっての!それはアナタの体が甘い物を欲しているのではなく、サブリミナル効果によってもたらされた欲求なのである!恐るべし、サブリミナル!!!

なんてことをやってみたかったけど、無理だっぺー

『マネーの虎』をキッカケに、民放連はサブリミナルに関する新たな基準作りを迫られている。どこまで細かく規定されるのか。されるとしたら何コマ以下が禁止となるのか。再三言っているが、本来サブリミナルとは「認識できない」短さの物を指すわけなので、せいぜい「3コマ以下は禁止」くらいが妥当だと思う。しかしそうすると今回厳重注意を受けた『マネーの虎』は6コマゆえに、規制範囲外だったというオチになってしまう。なんという矛盾。かといって、6コマまでもを規制対象に含めてしまったら、「サブリミナル禁止」というより「細かく切っちゃダメよ」ってなだけの話になってしまって、もう何のための規制なんだかわからない。あれもこれもが禁止になり、遊び心は失われ、一体どこへ向かおうというのか。民放連がどのような答えを出すのか興味深い。

もちろんサブリミナル効果は使い方を誤れば危険なものだ。しかし、サブリミナルサブリミナルと騒ぎ立てマイナスイメージばかりを植え付けた挙句、サブリミナルといえないようなものまで規制対象にしようとしているこの現状の方が恐ろしくはないだろうか。我々の日常生活の中にさりげなく挿入されるメディアからの言葉。彼らはいつも、いかにも正論のように、当然のように、あらゆる情報を発信する。誇張だらけの情報も、間違った情報でさえも、繰り返し報道するうちにまるでそれがただ一つの揺ぎ無い真実かのように鎮座し、人々の心へ根を下ろす。カラスはいつでも白い鳥になりえる。これこそが、サブリミナル効果ではないか。映像ならぬ、マスメディアにおけるサブリミナル効果・・・。たかが福沢諭吉より、なんぼも怖い。

ロビ太(2004.4.13)

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ロビ太の脳味噌しぼりたて! Copyright(C) 2004 ロビ太
イラスト: ロビ太
デザイン: おぬま ゆういち
発行: O's Page編集部