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ロミオの心臓
第3回
キャンディはいずこ…

 人がいう自分ってだいたい外れている。
 私キャンディのことも外れている。
 そんなとき私は心の中で「しめしめ……」とほくそ笑む。上手く騙されてる。
 ごく一部の人以外これでよい。
 心の中すべて吐き出したら、誰も私とは口をきかなくなる。
 それでもいいが、金を稼ぐには会社という厄介なところへいき厄介な人間関係の渦にはいらねばならない。
 その渦でおぼれぬため演技している。一般人の価値観を備えたふりをしたり、変人になってみたり、その時の自分を精一杯守るためのそれは隠れ蓑なのだ。
 そんな私の日々の努力を打ち砕く事件がやってくる。

 それには伏線があった。
 数年前、私はある事務所を任されることとなった。
 それまでの仕事では何事も謙虚な演技が間違っていたらしく、いいように利用され見返りがなかった。そのためちょっと強気にイメチェンした途端の出世に、なんとか売り上げアップを計ろうと野心に燃えていた頃、それは起こった。

 2、3軒隣のビルで殺人事件が起きて、刑事がやってきた。
「キャンディさんは(もちろん本名をいってる)いらっしゃいますか」
 一瞬皆が凍った。
 私も「とうとう容疑者か……」と思ったが何のことはない。本社でタイムカードを調べたら、事件のあった時間に帰社している人が私で、「返り血を浴びている人を見なかったか」という。
そんなもの見てたら真っ先に言うわい、という言葉を飲込み、社長からも協力するようにと言われ、事務所の責任者として刑事を招き入れた。
 女ばかりの異様な雰囲気に、さすがの刑事も目を白黒させていたが、そのうち慣れ、興味を示しはじめた。
 書き忘れていたが、私の働いていた所は“占いの事務所”で、ほとんどが私より年上の女性ばかりだった。
 早速刑事は聞き込みを始めるが、近所のビルとはいえ、この大都会、被害者を知っている者はいない。そのうちあろうことか、被害者の写真を前に人相を調べだした。
 ほくろがどうの、生年月日がとか、皆、人に殺された人の人生は占ったことがないらしく、占い師としての本能か大変な騒ぎである。当の刑事も「犯人の人相を占ってよ」とからかう。
 ここで私は閃いた。

 売り上げアップだ。
 未解決事件の、そう逃げ回っている犯人とかをうちの事務所で当てれば、「よく当たる」と客も増える。事実、占いに必要なのは「当たる」これしかない、と常々思っていた私は、早速、皆にこの案を伝えた。そして占う人物は当時まだ逃げ回っていた「福田和子」。時効間近で世間の関心も高いホステス殺人犯。整形して、常に危機一髪を逃げ延びる女。当時の常識を越えた、ワイドショー的なこの人こそふさわしい、そう読んでの人選だった。
 皆、面白がって潜伏先の方角を占っていたが、これを発表することには反対しだした。

 外れたらどうすんのよ、という。こうなることはわかっていた。やたら厳しい、しかも年下の小娘のいうことは素直に聞けないのだ。今思えば、私はイメチェンしたばかりで肩で風切っていたことも事実だ。しかし男の前任者のときは「はいはい」言ってるくせに、女になるとなめて反発するこの女というものにつくづく嫌気がさしていた私。
そんな私が何とか続いたのは、数は少ないが私を慕ってくれる人が何人かいたからだ。

 一月後、和子が時効寸前で捕まった。
 私に反発していた人が勝ち誇ったようにいう。「キャンディさんと和子、星がおんなじ」私はショックで言い返せなかった。そうか……。“私のなかに巣食う邪悪な面”、“どうか知られないでと思う悪の顔”、“福田和子のことがわかりすぎる私”は、和子と同じ星のもとに生まれた女……。ちくしょう、ばれた。どんな仮面をつけようが、占いという理不尽なものに、この星だからという殺生な言葉で芯の芯をつかまれ、いまや身動きがとれなくなっていた。いままでの苦労は、と崩れ落ちそうなとき、唯一の味方である19才の右腕が言った。「キャンディさんは福田和子なんかじゃない!」
 そうそう、人殺しなんかするはずないって言ってやってちょうだい……。
「キャンディさんなら捕まりません。逃げ切りますよね!」
 そう!あーあ……。

中央線のキャンディ(2000.9.19)

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デザイン: おぬま ゆういち
発行: O's Page編集部