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ロビ太の脳味噌しぼりたて!
No.4

第2回
〜問:「運動会に於けるお遊戯」と「オリンピックに於ける芸術」は異なるか否か〜
PART.1

■ 小学校の運動会に付き物の「お遊戯」

思えば1年生の”ウサギのダンス”から始まり、行き着いたのは”花笠音頭”であった。スポーツの祭典である運動会で、何故耳やら笠やらつけて踊らねばならんのだ??わけがわからない。が、小学生にそんな疑問を提示する能力も意識もなく、いわれるままに練習をする。運動会前の体育の授業は、ほとんどがお遊戯の練習・・・10分無い演技を何度も何度も何度も何度も気が遠くなるまで踊り続けるのである。しかしガキどもにそんな根気があるわけがない。ある程度動きをマスターしたら、もうみなダレダレである。上に整然と伸びるはずの腕々はムーミン谷のニョロニョロと化し、軍隊のごときであったはずの行進は囚人の朝のジョギングだ。教師の怒号が空しく校庭に響く・・・。
しかし、運動会当日。信じられないことが起こった。少なくとも先生にとっては、だが。
生徒達は、あのダレダレの練習が嘘のように、力一杯踊ったのだ。性も根も尽き果てると思うほど目をキラキラさせて、もう指先は太陽に向かってピンと張りつめ、膝の裏の筋も伸びきらんばかりに、ニッコニコで踊ったのだ。

(問)皆さんはそれをどう思いますか?

(或る事例)ここで担任教師は思いがけない反応を示した。以下が反省会での彼の発言である。

「みんな、練習の時はあんなにいい加減だったのに、どうして運動会の時だけ急に一生懸命踊るんだ。皆が見ている前でだけそうするのはズルイ」

さも傷ついたといわんばかりに、担任教師(男・36)はそう言ったのだ。

うう〜〜む。わからんでもない。おそらく先生は、「人が見ていないところでこそ一生懸命やる美学」が好きだったんだな。人前でだけ良い子ぶるのは好かん、と。
しかしだ、生徒達はただ「本番だから」よりよく見えるために、ちゃんと踊っただけのことである。練習の時は本気じゃあなかった。でも本当は、ちゃんとやれば出来るんだと彼らは証明して見せただけである。

さて、ここで問題なのは、生徒と教師の意識の違いなどではない。
問題は「紅白で点数を競う運動会」に、「点数がつかないお遊戯」という種目が存在しているということだ。
「リレーで勝てば点数が倍」って言われりゃあ頑張るけど、点数がつかないサブ競技に必死になるヤツはいない。喜ぶのは子供のかーちゃんだけやな。しかし、かといってお遊戯に点数を付けるわけにはいかない。一応、お遊戯ってもんはダンスであり芸術であるわけだ。誰がどういう基準で点数を付けるのか。誠に難しい問題である。あれ・・・でもまてよ・・・よ〜く考えると・・・・・

 世界最高峰のスポーツの祭典であるはずのオリンピックにも「お遊戯」がたくさん存在する!!??
そうなのだ。「お遊戯」というと語弊があるが、よーするに「芸術」を審査するような競技がある。芸術に点数をつけるとは・・・わかるようなわからんような、って感じでしょ? で、実際見てみると、やっぱりわかるよーなわからんよーな・・・でもでも「お遊戯」と確実に違う点がひとつ。なんたって、おもしろいっつーことである。前置きが長すぎたが、要するに今回は「オリンピックに於ける芸術競技」を紹介しようというわけです。はい。

■「オリンピックに於ける芸術競技」其の壱 シンクロナイズドスイミング

シンクロとは・・・そう、アレです。水の中から足やら手やら出して踊りまくるあの競技です。何が面白いって、やっぱりチーム演技!これを見ないでどうする!という感じですな。

(※注: シンクロには、1人で演技するソロ、二人のデュエット、8人のチームがある。シドニー五輪ではデュエットとソロの2種目が行われる)

ヘビ女ではない。くれぐれもまず登場からして面白い。整列した選手達は、プールサイドを左から右に行進するため、正面の観客から見ると横顔しか見えないわけだ。それなのにわかる、選手達の「これでもか」という笑顔・・・微笑むどころか、大口開けて(本当に三角形でぱっくり開いているところが漫画みたいだ・・・)さらに目を見開き、もう食われそうな勢いの笑顔なんである。それが8人分あるから圧巻だ。(シンクロファンや関係者の皆様、悪気はありません)
そして行き着く先には、低く広い壇(ここから飛び込む)がある。問題は壇上に足をかける瞬間だ!!ここを見逃しちゃあならない。
先頭の2人は、壇に乗ったが途端に体は横向きのまま、顔だけ寸分違わず同時に正面(観客のほう)をクリッと向き、「これでもか」の笑顔を向けながら進むのだ!!そして後続の2人も壇に足をかけた瞬間から、きっちりと顔だけ正面に向け「これでもか」、そしてまた後の2人も・・・リズミカルに、2人ずつ同時にクリッ、クリッと顔を向け「これでもか」「これでもか」「これでもか」と食われそうな笑顔を向ける・・・夢に見そうだ・・・(シンクロファンや関係者の皆様、くれぐれも悪気はありません)是非皆さんに注目していただきたいポイントである。
しかし、そもそもシンクロを考えた人ってどうかしてるよな。だっておかしいじゃない。逆さになって水面から足を出したり引っ込めたり。なんじゃそら、って思わんか?しかも水面から顔を出すときは必ず「これでもか」笑顔!水中では口を閉じていて上がる瞬間に開けるわけだから、ホントにプッハーーーーって感じだ。食われそうだ・・・。(いや、ほんとに悪気は無いんですよ)
とまあ、そんなイメージだけを持っている人も結構いるとは思いますが(って、私だけだったらすまん)、是非オリンピックのチーム演技を見てくれ。とにかくすごい!感心する!人間はこんな事ができるのか・・・誰もがそう思うはずだ。速さを競う競泳なんかはまだ想像の範囲内だが、シンクロの動きというものは人間の想像の範囲を超えている。足だけ出してる時は頭が水中に入ってるわけだから、お互いの足が見えてるわけ無い。それなのに8人の動きが気持ちいいほどシンクロしている!・・・だからシンクロナイズドスイミングっていうんだと言われればそれまでだが、ホントにただそれだけでも見ていて面白いのだ。
そして今回、フリー演技のテーマが「火の鳥」・・・手塚治虫の名作漫画だというのだから驚きだ。火の鳥の壮大な世界をイメージして、なんつーことを言っていた。この競技もまた、芸術なのである。技の難しさ・完成度などの「技術点」と、美しさ・雄大さなどの「芸術点」で競うという・・・。
ただ印象としては、かなり「激しい」芸術ではある。もう見るからにハード。長時間水の中で動き回るわ、息は止めてるわ・・・しかもこの「火の鳥」の演技は、水の中から選手がバッチャーンと飛び出しちゃったりするのだ。これには外国選手も驚いたそうだ。
これが昇竜の滝だ!他にも見所は、8人がヒザを直角に曲げた足を水面に出し、それを連結させる「昇竜の滝」なんかもある。
余談だが、このすごい名前は一般公募で決まった。その時の説明書きに「このキャタピラを連想させる技に名前をつけてください」とあったのだ。ならキャタピラでいいじゃねえか、と私は思わずにいられなかったが、やはりそれではマズイらしい。なんたって芸術だから。

まあそんなのはいいとして、このシンクロという競技、日本がかなり強いというのを皆さんはご存じか?1984年のロサンゼルス五輪から実施されたんだが、以降全ての五輪大会で銅メダルを獲得している・・・つまり100%銅メダルをゲットしてるっつーことなのです。オリンピックの全競技を見回しても、銅メダルとはいえメダル率100%なんて他に無いんじゃないか??そして今年のシドニーでは、もちろん銀以上を目指しており、実現の可能性も高い。
日本チームの水準アップや独特の演技構成も重要なポイントだが、それ以上のポイントは、「優勝候補のロシアがおかしい・・・」っつーことなんである。
ここ数年、メキメキと力を付けたロシアは、国際大会の全てといっていいほど優勝しまくっていた。それまでの世界王者、アメリカやカナダを差し置いての首位独走状態。負けじと頑張る日本がそれに追随する、という形だったのだ。そもそもロシアなんつー国はバレエの名産地。小さい頃からバレエをやってきた選手達、もしくはその歴史の流れを組んだコーチ達の指導の下、白鳥だーなんだとバレエ的なものを踊ってしまえばもうお終いだ。「芸術的」とか「高い表現能力」とか何とか言われて優勝してしまう。
しかししかし・・・今回デュエットでロシアが選んだテーマは・・・なんと「空手」!!!!「ジャパニーズ!カラーテ!」なんである!!もう訳が分からない。それを聞いた関係者のみならず、日本人全員、茫然自失だ!しかも実は、日本チームがテクニカル・ルーティンでテーマにしているのも「空手」なんである。

(※注: シンクロは「テクニカル・ルーティン」=規定の要素を演技中に必ず含まなきゃいけない、まあなんというか課題をもとにオリジナルで構成する演技(今回、日本チームのテーマは「空手」)と、「フリー・ルーティン」=自由演技(今回、日本チームのテーマは「火の鳥」)があり、その2回の演技の合計得点で順位が決まる)

どうやらオリンピックの世界予選で日本の空手の演技を見たロシアが、日本を動揺させるためだか、日本の「空手」のインパクトを弱めるためだか知らんけど「うちも空手やりませう」となったみたいなんだが、どう考えてもマネっこ・・・水着も日本チームの予選衣装と酷似しており、胸に「空手」の文字まで入っているマネっこぶり。日本はチーム種目でロシアはデュエット種目だからマネっこしていいとでも思ったのか?
ロシアよ、バレエの名産地&世界王者たるプライドはどこへ???他にも選手のドーピングが判明したりとか、なんだか動向が奇妙なロシアなのである。

井村雅代コーチの怒声に何故か私ら取材陣がビビるロシアの「なんちゃって空手」はともかく、日本の「空手」の演技はかなり面白い。力強くスピーディーで最後まで飽きずに見られる。どっかの空手道場で実際習ってきたらしく、入水前の「セヤッ!」のかけ声とポーズもかなり空手で、ある意味笑える所も良し。

しかしなんか・・・芸術性とはかなりかけ離れていくような気もしないではないが・・・。それとも日本人には「芸術?????」と見える空手も、外国人から見ると「オ〜ウ!ビュ〜テホ〜!」とかなるんかいな??予選ではなかなかの点を出していたものの、オリンピック本番での評価はどうなるか? また、「空手シンクロ」に外国審査員は何点の芸術点を付けるのか?興味がつきないですな。(まあ日本人は足が短いとかスタイルの問題もあるので、どちらかというと「優雅さ」よりも「速く・難しく・正確に」を信条としているので、芸術点よりも技術点重視という面もありますがね)

(新体操編につづく…)

■おまけ

シンクロナイズドスイミング競技スケジュール

9月24日(日)デュエット・テクニカルルーティン
  25日(月)       フリールーティン(予選)
  26日(火)       フリールーティン(決勝)
  28日(木)チーム・テクニカルルーティン
  29日(金)     フリールーティン

ロビ太(2000.8.24)

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イラスト: ロビ太
デザイン: おぬま ゆういち
発行: O's Page編集部