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ロビ太の脳味噌しぼりたて!
No.5

第2回
〜問:「運動会に於けるお遊戯」と「オリンピックに於ける芸術」は異なるか否か〜
PART.2

■ 「オリンピックに於ける芸術競技」其の弐 新体操

いやーーー何がいいって、新体操の松永理絵子でしょ。もう、見てて飽きないんだこれが。歴代日本人新体操選手の中で、ダントツにいいと思うのです。まず、少女漫画顔負けの10等身!!!足、なっが〜〜〜!みたいな。そんでもって顔もかわいい。多少エラは張ってるものの(ごめん)色っぽくもあり、キュートでもあり・・・。関係ないけど高校生時代は単にルーズソックスを履いてただけで「コギャル選手」とか訳わからん事も言われたりしていた。
しかし、彼女の何が凄いって、「芸術」を追求しようとしてる所なんである!
考えても見てくれ、かつての日本人選手を。フィギアスケートの伊藤みどり・・・いやあ、すごかった。世界初の3回転半ジャンプで銀メダル。でも、でもね・・・あれはスポーツでした・・・。芸術性とは無縁、「はいっ!はいっ!ふんっ!」とばかりに飛び上がる、そのたくましい肢体・・・。
いつでもヒロイン松永里絵子やっぱりスケートにしろ新体操にしろ、ロシアだとかヨーロッパの選手は「カルメン」で演技しちゃったり、愛憎だとか苦悩だとか表現しちゃう訳だ。しかし日本人はなあ・・・と、寂しく思っていたのであったが、いやいやどうして、今年のシドニーでは「芸術の松永」が出るのである。否が応でも期待は高まるさ。
どの辺が芸術って、周囲の人に「芸術性より難しい技をいっぱい入れた方が得点が上がる」と言われれば、「私の目指す新体操と違う」と言って練習をボイコットしてしまうような選手なのである。
リズム系でストーリーが無いような曲を渡された時には「いくら聞いても曲が理解できなくて踊れない・・・」と真剣に悩んだ挙げ句、作曲家に直接会いに行ったのだ。話をするうちに松永自身の中からイメージが生まれ、コーチいわく「まるで魂を吹き込まれたかのように」踊りが変化したという!!
そんな彼女の十八番は「蝶々婦人」。愛する人を待ち続けるその悲哀を、女優顔負け・情感たっぷりで踊り、日本人過去最高の10位に入ったりした。う〜んすごい。かつて日本人にもそういう選手はいたかもしれんが、ここまで徹底してる選手はそういないんじゃないか??まるでかつて流行った新体操漫画「光の伝説(麻生いずみ作)」を地でいってしまうような選手なのである。
しかししかし世界レベルで考えると・・・そう、それでもまだ、世界選手権10位・・・なのである。
彼女の敵は「伊藤みどり的スポーツ演技」ではなく、「猿回しの猿的軟体動物」であった。
現在の世界女王はルーマニアのカバエワ。このカバちゃんは、関西のテレビCMでただいま大人気の軟体動物。19歳にして脅威の10点満点連発で世界女王に輝いた強者である。はっきし言って芸術性とは無縁(言い過ぎか?)ことさら自分の体の柔らかさを見せびらかし、奇異なポーズで種具を操る・・・。今まで芸術性が幅を利かせてきた新体操界で、なぜカバちゃんのような選手が彗星の如く現れたのか。ひとつには採点方法の変更があった。昨年からの規定変更で、芸術性よりも技術重視の得点計算に変わったのである。ううむ。せっかく日本にも「芸術の松永」が誕生したというのに新体操界が技術編重に陥るとは・・・。
しかしそれを危惧する声も有り、また観客も、新体操に於ける芸術性の素晴らしさを忘れていない。
それがハッキリしたのが、先に触れた(松永が10位に入った)世界選手権。
初日からカバちゃんはその軟体動物ぶりを発揮し、10点満点連発で個人総合で優勝。その勢いは止まらないかに見えた。しかしその翌日の種目別決勝・・・

(注:新体操や体操には、個人総合と種目別がある。新体操でいう種目とはリボン、ボール、フープ(輪)、クラブ(こん棒)、ロープ(縄)など。種目別とはそのそれぞれで一位を決めるもので、個人総合とは全ての種目の総得点で一位を決めるもの。だからまあ、個人総合で優勝することこそ世界王者といえるわけだ。個人総合と種目別の全てで優勝しちゃったら、もうそれこそ王者中の王者。全冠制覇と予想されたカバちゃんは、確かにすごいといえばすごい。)

今世紀最強の軟体動物カバちゃん自体は前日と同じパーフェクトな演技をしているにもかかわらず、いまひとつ高得点に結びつかない。そんな中、観客が熱狂したのは前女王、ビトリチェンコの情熱的な演技だった。ビトリチェンコは観客も審査員も魅了、高得点をはじき出しカバちゃんを抜いて種目別トップの座に返り咲き。全冠制覇かと思われたカバちゃんを阻んだのは、芸術の女王だったというわけだ。

果たしてシドニーでの流れはどうなるのか??得点規定があるとはいえ、審査するのは人間。どういう演技が高得点を出しやすいか、という傾向が大会によって変わったりもするのだ。だって芸術点なんて、感情論だから。そもそも芸術に点数を付けること自体が謎なわけだしな。
でもまあ、われわれが見るときは「芸術」なんてそんな小難しいこと考える必要は無い。「うわ〜この人キレイ〜」とか「かっこいい〜」とか、単純にそう思える選手って、やはりそれなりに点数出ちゃったりする。同じく「なんかしまりがない」とか「印象うすい」と思う人が優勝してしまうことはまず無い。だから難しく考えずミーハー気分で、軟体動物を横目に日本の松永を応援しましょう。
ただ気になることが一つ・・・。松永のコーチである秋山エリカ(元新体操選手でソウル・ロス五輪代表)が、以前「松永は西洋的なムードがあるから、どう考えても和風の物が似合わない」と言っていた。
確かにそうだ。シンクロや、フィギアスケート、かつての新体操選手なんかは、「和」の魅力をアピールするために、よく日本の曲や要素を取り入れてきた。でも日本人のくせに「洋」っぽい魅力の松永には似合わない。だからこそ松永理絵子は外国人の審査員にも可愛がられたり、国内外でファンがついたともいえる。
そして、「でもちょっと日本の要素を入れるか・・・」と考え出したのが、前述した「蝶々婦人」だったのである。なるほど、これなら日本人が主人公の物語とは言え曲自体はオペラ、つまり西洋モノなので違和感がない。そして実際、国際大会でもウケた。だから秋山コーチの話を聞いたときは、なるほどなるほど、と思っていたのだ。・・・嗚呼それなのに!!
先月、スポーツ新聞に松永の記事を見つけ、嬉々として読んだ私は驚いた!!
「松永、シドニーに向けて演技に日本の要素を取り入れる」とか書いてあるではないか!!
・・うう・・・そうなの・・・?理絵子ちゃん・・・。今更、笛やら太鼓やら使った曲にしちゃうの???
なんだか悲しい・・・。
いや、しかし!イヤなモノはイヤという松永がそう決意したのならば、ファンたる者は黙ってそれについていくのみ。そしてオリンピックで美しく舞う松永を心待ちにすることしかできないのである!
ああ・・頑張ってくれ・・・。

■ 其の他

他に、芸術的要素が含まれるものに「体操」(特に女子。床の演技なんて音楽を使ってそれに合わせるため、選手によってはバレエちっくになったりお色気ダンスになったりと、芸術系に傾きがちで面白い。違いといえば、必ず何本かタンブリングを入れねばならないところか。タンブリングとは、前転・バク宙・ひねり技などを何回も連続ですること。これがまたすごい。生身の体一つで、こんなにも飛んだり回ったりできるんだと感心する。しかも、女性が)や「飛び込み」(今度解説します)などなどある。

■ 結論とでも申しましょうか

「オリンピック」というと「スポーツ」というイメージが強いが、実はかつてオリンピックには「スポーツ」と「芸術」の二部門があった。「芸術」とはいわゆる絵画や彫刻などで、スポーツと同様、メダルも授与してたそうな・・・この名残は「オリンピック芸術祭」として残っており、今回もシドニーで開催されている。日本の芸術家も出品してるらしい。(なぜかほとんどニュースにならないのでまるでマイナーだけど)
実はオリンピックは、古くから芸術と結びついていたんですね〜。だからオリンピックで芸術種目が行われても、なんら不思議はないのかもしれない。
とはいえシンクロも新体操も、近年オリンピック種目に含まれたもの。だから今後も、オリンピックに於ける芸術種目が増える可能性もあるかもしれぬ。
例えばバレエなんてどうだろう。モダンとクラシックの2種目、それぞれソロとチーム(群舞)があったりするわけだ。そしてスピード・正確さ・安定度・難易度などの技術点と芸術点で競のだ。もちろん日本代表は熊川哲也。金メダルをゲットしてもらおうではないか。
・・・しかし、シンクロや新体操はもともと「スポーツから派生した芸術」である。
だから芸術点などという「芸術の点数化」に拒否反応をおこす人はいない。(点数化に当たり、好み等の個人差や得点基準をどこに置くかなどの問題は多少あるものの)
ところがバレエは、音楽・文学・踊りなどなど「芸術から派生した芸術」である。肉体で100%表現するという点では同じものの、「芸術」という意識がバリバリ全開であるからして点数化とは無縁だ。しかも踊る人も見る人も点数なんて基準を認めないだろうから、順位もつけようがなく、オリンピック競技に加わる日は永遠にこないであろう・・・。
それどころかこんなアホなこと言ってたらオリンピック関係側にもバレエ関係側にも殺されそうだ。

さてここでタイトル
問:「運動会に於けるお遊戯」と「オリンピックに於ける芸術」は異なるか否か

を考えよう。って、考えるまでもなく、違うに決まってる。面白さからして違うし、血ヘドを吐くような思いをして芸術・技術を追求する選手達に対して、はなはだ失礼な問いである。
そこでこんな答えはどうだろうか。

答:もちろん異なる。しかし熊川哲也が金メダルを獲る日もまた、来ないであろう

(おしまい)

■おまけ

新体操競技スケジュール
9月28日(木)団体総合予選(団体は5人がチームで演技をする。メダル候補で期待大)
         個人総合ロープ・フープ予選(日本からは松永1人出場)
  29日(金)個人総合ボール・リボン予選
  30日(土)団体総合決勝
10月1日(月)個人総合決勝

ロビ太(2000.8.26)

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イラスト: ロビ太
デザイン: おぬま ゆういち
発行: O's Page編集部