No.6 |
第3回
〜人生を賭けた努力と比べたら、エジソンの努力なんて鼻クソみたいなもんかもしれない〜
◇
天才とは1%のひらめきと99%の努力である。
かつてこんな寝ぼけた事を言ったヤツがいたらしい。
が、ちゃんちゃらおかしい。それこそ天才のたわごとだ。
努力だけでダヴィンチやアインシュタインやピカソだとか、そんなのになれるかっつーの!!
しか〜し、世の中には凄い人っているものなのだ。
彼らは決して「天才」では無い。にもかかわらず、圧倒的なパワーで生き抜いている。
私のような凡人のパワーが単三電池1本分だとすると、彼らのパワーは実に原発1基分。(ちょっと物騒)
そのパワーの前に、我々はただただ沈黙するしかない。
さてその彼らとは・・・世界最高峰のスポーツキングとなるために日々を過ごしているヤツらのことである。
常に注目される、柔道・競泳・女子マラソン以外にも、地道に戦っているヤツらは大勢いて、知られざるドラマが隠されているのだ。応援したい選手はたくさんいるが、特に心の底から応援したいのは、そんなヤツらなんだよな。彼らを見ていると、「もしかして99%の努力をすれば天才になれるのかも??」と、うっかり信じそうになるのである。
トライアスロン・・・今年からオリンピック競技として採用されたこの競技はだてじゃない。
スイム1.5キロ・バイク40キロ・ラン10キロ・・・
つまり泳いで、自転車のって、とどめに走るのだ!それで計51.5キロ。
これだけのことを1人でやるってんだから、もうそれだけで常軌を逸してるといえよう。
男性の競技というイメージが強いが、日本では女子のレベルの方が遙かに高く、充分世界と戦える位置にいる。
女子の代表選手は3人いるのだが、中でも注目して欲しいのは、平尾明子---この人である!
トライアスロンの女子選手達は、ハッキリ言ってガタイがいい。肩は水泳選手並に発達し、パンパン。
下半身は自転車選手並に発達し、パンパン。最後のラン(10キロ)を走る姿はそりゃもう逞しい。
こんな重そうなのに、よく走れるなあ・・・という印象なんである。
ところが!平尾という選手は本当にスレンダーなのだ。
実際会ってみると、「こ、こんな身体でトライアスロンできるのか???」
それくらい、明らかに違うんである。どちらかといえば・・・そう、マラソン選手のようなボディ。
実は彼女は、もともと陸上中距離の選手だったのだ。そしていずれはマラソンを走るはずだった。
シドニー五輪の女子マラソンは史上最強と言われているが、もしかしてその中の1人になっていたかもしれない、それくらい期待されていたランナーだったのである。
が、そんな話をすると、平尾は笑って否定した。
「いやあ、あのころの私は根性腐ってたから、きっとダメでしたよ」
なぜ彼女はマラソンを捨て、トライアスロン選手になったのか?
記事によっては「足首の故障が長引くなどして」と書かれているが・・・真実は、別の所にあった。
かつての彼女は、ダレダレだったらしい。それというのも所属していたのはD社の超名門陸上部。
ここは選手達を厳しい規則と監視の下に育てるという、前時代的な方針だった。
ところが自我の強い平尾にとってこれは地獄。その反発心は鬱積し、しまいにはお菓子のヤケ食いという妙な方向に流れていった。お菓子のヤケ食い・・・と聞くと、「なんだカワイイもんじゃね〜か」と思うだろう。だがしかし、スポーツ選手・・・特にマラソンランナーにとっては自殺行為にも等しい。月に2万円ものお菓子を隠れて食べてったっていうんだから、これはもう「ランナーである自分」を放棄していたともいえる。
そうして本人曰く「根性腐って」いるような日々が続いていた。
そんな時、訪れた運命の出会い・・・現在の夫、関根陽一トレーナーが陸上部にやってきたのだ!!
(そう、平尾は現在既婚者、つまり主婦選手なんである)
この関根氏、若いのに、しかもかっこいいのに(関係ないか?)ものごっつ「できる」トレーナーなのだ。
整体はもちろん、針・灸の資格まで持ち、プロ野球(しかも西武)やJリーグの専属トレーナーをしていたこともある。そしてヘッドハンティングされた先が、平尾のいた名門陸上部だったのだ。
2人は恋に落ち、付き合いだしたのだが・・・・・問題が一つ。
この時代錯誤の陸上部は、当然のごとく「恋愛禁止」なのであった。女子プロレスとか名門私立女子校じゃあるまいし、今時あるか?そんなの。まるでメロドラマのような「禁じられた恋」に身を焦がす2人は、こっそりとバレないように付き合いを続けた。
しかし、どこの世界にも人の幸せを邪魔するヤツはいるもんだ。
D社陸上部きってのエース、某有名女子マラソンランナーが、2人の仲を監督にバラしたのである!!
それはちょうどアメリカ合宿中だったのだが、それを聞いて怒り狂った監督が何をしたかというと、
関根トレーナーを日本へ強制送還!!!もちろん有無を言わさずにクビ。なんてこった・・・・。
裏の裏話だが、実はこのオヤジ監督(妻子持ち)と某有名女子ランナーはデキてたらしい。
自分は選手に手エだすくせに、トレーナーがやったら即クビっていったい・・・。
(余談・チクッた某有名ランナーの話。興味ない人は飛ばしましょう:このチクッた女子選手はシドニーオリンピック・女子マラソンの代表選考会で本命視されつつも失敗し、代表にはなれませんでした。「ケッ!こんなむかつくヤツは失敗してしまえ!」とは思っていたものの、リタイヤした彼女はあんまりにも悲しく、まさに悲愴でした。途中失速した彼女は、沿道に監督の姿を見つけると、泣きながら歩いてきました。そして発した言葉「お願い・・・もうやめさせて」。本来なら、走るのも自分の意志だし、やめるのも自分の意志のはず。ところが彼女は監督に嘆願したのです。「もう走れないからやめさせてくれ」、と。別に監督も、彼女を馬車馬のように無理矢理「走れ走れ!!」と指導したわけでは無いと思います。しかし、この陸上部の「選手の自主性より管理重視」という体制・・・また、監督との恋愛関係という2重の状況が、彼女の「お願い」という言葉につながったのではないでしょうか。復帰レースということもあり、相当のプレッシャーだったとは思います。が、監督の姿を見た途端に崩れた彼女には、明らかに「依存」があったように思いました。彼女は誰のために、何のために走ったのか??「お願い」という言葉を発した彼女には、「何が何でも勝ってやる」という意志がまるで感じられなかった。それはスポーツ選手にとって致命的。才能があって、勝つ力があった彼女をダメにしたのは、やはりその陸上部の体制と監督です。平尾がここをやめたのは不幸中の幸いではないかと思います。)
さて、関根トレーナーのクビ事件からしばらくは、平尾は陸上部に在籍していた。
そりゃあ部としても将来有望な選手である平尾を手放すのは忍びない。だから処罰は関根氏だけで充分というわけだ。しかしそんな状況の中で、平尾自身が真面目に練習するわけもない。
選手間の風当たりも強くなり、居づらくなったのも手伝って、平尾はこの名門陸上部をやめることと相成ったのである。
「そして、全てを捨てて愛に生きた2人は結婚し、幸せに暮らしました・・・ちゃんちゃん。」
というのが普通である。しかし、このカップルはこの後がスゴイのである。
2人して、いきなりトライアスロンの世界に飛び込んでしまったのだ!!!
もちろん可能性はあった。平尾のランナーとしての才能、そして中学まで水泳をやっていたという事実。
(トライアスリートとして必要な要素は、陸上と水泳の経験。双方でまるで違う身体動作をするので、どちらかしか経験が無い人には難しい。身体が発達する前までに両方の下地を作っておくのが望ましい)
だからといって、トライアスロンで成功するとは限らない・・・お互いにそれはわかっていた。
それでも、2人は一歩を踏み出したのだ。こうして、地獄のような毎日が始まった。
一日の練習は、6キロ泳ぐ・100キロ自転車漕ぐ・20キロ走る、という凄まじさ。その間休憩は昼飯含めて15分。始めの半年、マラソンランナーよりも過酷な練習量に、平尾は毎日泣いていたという。
そんなハードトレーニングで食欲なんてあるわけない。でも食べなきゃいけない。
トライアスロンという競技はその凄まじい運動量のため、練習後1時間以内には食事をしなければいけないのだ。急激に消費されたカロリーを補給しなければ、「身体が筋肉を食べてしまう」という・・・
そうすると翌日は、フラフラで顔つきまで変わり、ヨダレだら〜〜〜ってぐらいボロボロになってしまうんだと・・・怖い・・・。
夫の関根氏は家事一切を負担、栄養バランスを考えた食事を平尾に食べさせ、毎日のマッサージも欠かさない。まさに専属トレーナーとはこのことだ。ただし家計はものすごく苦しい。
平尾につきっきりでいるため、プロ野球のトレーナーなど拘束時間の長い仕事は出来ない。そのためスポーツジムの雇われトレーナーという薄給で家計をまかなっていたのだ。(今年やっとスポンサーが決まり、家計は安定。良かったね)
とにもかくにも、そんな生活を来る日も来る日も続けたのだ。
彼らの目標はただ一つ、2年後のシドニーオリンピック、トライアスロンでメダルをとること。
普通に考えれば無謀もいいとこだ。競技を始めてわずか2年後のオリンピックで勝とうというんだから。
それどころか、日本代表の座さえとれるかどうか・・・しかしやっちまったのだ、この2人は。
わずか2年で日本人トップタイの成績で見事代表の座を獲得!!すごすぎる・・・。
日本は国別ランキングだと世界3位。つまりトライアスロンがそこそこ強い国なのだ。
そこでのトップということは、世界トップレベルの仲間入りといえる。
それを証明したのが、先月の世界選手権。バイク終了時19位だった平尾は、最後のランで怒濤の10人抜き。スレンダーな身体で颯爽と、プヨプヨした選手達をごぼう抜きしていく姿は壮観だ!
あと何キロかあったら、間違いなく3位か4位には入っていた。しかし結果は届かず9位。ところがこの大会、終了後にとんでもないことが発覚した。ランのコースが、規定より2キロ以上短かったのだ!!コース設定時点での計測ミス・・・・そんなことってあるの!!??
やり直すわけにもいかないので、結局そのままの順位が公式記録となったのだが、あと2キロあったら平尾はどこまで順位を上げていたのか???もったいない話だ・・・ふざけんな!!大会運営者!!
さて、平尾のシドニー展望だが、最も苦手なスイムで踏ん張り、次のバイクで先頭集団にくっついていければ、最後のランは平尾の独壇場である。仮題は、いかに体力を残しつつ第1集団のままでランに入れるか、その一点に絞られる。しかしメダル展望ともなると、トライアスロンは開催国・オーストラリアがめちゃ強で、表彰台独占の可能性が大。だから入賞(8位以内)できればバンバンザイ!!それだけでも凄いことなんである。でも・・・もしかしたら、こいつならやってくれるんじゃないか、メダルをとるんじゃないか・・・そんな期待をさせる所が平尾の魅力なんである。
平尾は結婚しても姓を変えていない。それは、「平尾明子」がやってやるんだ、という陸上部に対する意地と、応援してくれた人たちへのご恩返しだという。「陸上を私の勝手なわがままでやめてしまったから、今まで応援してくれた人たちに申し訳ない。だからせめてフィールドは違えど頑張っているということに気づいてもらうために、名前をそのままにしてるんです」。
いやいや、ホントに君たちは頑張っているよ。あとひと頑張り、いよいよ決戦だ!!
9月7日に入って来た新情報!!競泳界では全身を覆う鮫肌水着が大流行し、かなりのタイム短縮を見込まれているが、日本トライアスロン連盟も新水着を開発!!シドニーは涼しいので全身を覆うウェットスーツタイプのラバー素材だそうだ。浮力アップなど様々な効果で、平尾のスイムのタイムは1分も短縮したらしい!!同じスーツを着た他の選手にはそれほど大きな効果は見られなかったらしいが、スイムが苦手の平尾には効果てきめん!!これは、本当にひょっとしてひょっとするかも!??
開会式翌日、競技初日の
9/16(土)午前8:30〜
*テレビ放送は同日、午前11:00〜(BS2・録画)
レースのドキドキ感を楽しみたい人は、速報を見ないように午前11時までテレビを消して待ちましょう!
(2000.9.9)
ロビ太の脳味噌しぼりたて! Copyright(C) 2000 ロビ太 イラスト: ロビ太 デザイン: おぬま ゆういち 発行: O's Page編集部 |