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ロビ太の脳味噌しぼりたて!
No.7

第4回
ゆめのあと
〜嗚呼・五輪終了或イハ始マリ〜
PART.2

怒濤のように始まり怒濤のように終わったシドニーオリンピック・・・
もうすでに誰もが「シドニー?まだそんなこといってんの?」といわんばかり。
巨人の日本一に狂喜乱舞する人々を後目に、今更ながらオリンピックについて語らせていただきます。
なんたって、ほぼ全種目テレビチェックして、鼻血吹くほど応援してたんすよ。マジで。

■ オリンピックの新競技は大荒れ!!-vol1:トライアスロンの平尾明子選手のこと

トライアスロンスイムずかい前回このページで触れた、元マラソンランナーの主婦選手、平尾。残念ながら17位で終わってしまいました。いやあ、ほんとトライアスロンって何が起こるかわからない&オリンピックも然り・・・とにかく大荒れのレースであった。
まず一種目めのスイムで異変は起こった。第1の台風の目、それは「過去のオリンピックで、メダルを獲得したことがある競泳選手」。要するに、プロ中のプロのスイマーがトライアスロンに参戦していたのだ。確かに元水泳選手というトライアスリートは多々いるが、元メダリストというとそうそういない。そのプロスイマーが、その得意の泳ぎを武器にとんでもない超スピードで泳ぎまくってしまったのである!周囲にいた選手達は負けじと彼女についていこうとした。そうしてかつて無いほどの長〜い陣形を形作ってしまったのだ。ここで先頭と最後尾の時間差がとんでもなくできてしまった。スタート位置がはじっこだった平尾はこの流れに乗れず、スイム終了時で40番ぐらいまで順位を落としてしまった。
しかしまだ従来のレース展開であれば、バイク(自転車)で第1集団との差は苦しいながらも詰められるはずであった。ここで第2の台風の目が出現・・・それは第2集団の「大転倒」である。シドニーのトライアスロンコースは比較的道幅が狭く、接近して走っていた選手達がどどど〜〜っと一度に転倒してしまった。平尾はこの後ろにいたため巻き込まれずにすんだが、第2集団の選手数が一気に減ってしまった。するとどうなるか・・・本来なら2番手にいる大集団は、協力しローテーションしながら第1集団との差を詰めるべく走るものである。
(これをドラフティングという。先頭を走るより、人を風よけにして後ろを走った方が圧倒的に有利。すると誰も前に出たがらなくなりレースの停滞を生む。そのため、選手達の暗黙の了解として、順番に先頭へ出る・・・つまりローテーションしながら走るわけである。当然ひとりで走るよりスピードが上がる。トップ集団は「より後続を引き離すため」後続集団は「よりトップに近づくため」協力して走るのである。もちろん、そこからいつ飛び出すかは個々の駆け引きにゆだねられる。)
しかし集団が半分以下に減ったことにより、第2集団全体のスピードが落ちた。さらに転倒を恐れてか上手くローテーションが回らず、バイクを終えた時点で第1集団と第2集団の差は縮まるどころか開いている状態であった。これもまた異例の事態である。
そんなこんなで大きく出遅れたままランに入った平尾は、とにかく走った。だがいくら得意のランとはいえ、この順位はどうにもひっくりかえらず、結果10数人抜きはしたものの届かず17位で終わった・・・。
大荒れレースだったという証拠・・・というかなんというか、下馬評ではオーストラリア勢のメダル独占と言われていたのが、金・銅ともにスイスにさらわれた。ビックリである。
これがシドニーオリンピック・トライアスロンの顛末だ。
しかし平尾選手・・・自分の力を全て出し切っての結果ならばともかく、この大荒れのレースではなあ。
「完全燃焼」の合い言葉で頑張ってきた夫妻に、一応聞いてみた。
「あの〜完全燃焼できましたか??」
「いやあ・・・(しばし間)・・・不完全燃焼ですね。」
そりゃあそうだよなあ・・・。気になるのは今後のこと。彼女の中の人生設計は「シドニーで完全燃焼したら、引退して子供を産む」だったのだ。まだ25歳なので年齢的には次のアテネオリンピックも充分狙える。(今回優勝したカナダのマクマホンなんて、なんと33歳なのだ。)しかし問題は心。どんな競技でも「今回で最後」と頑張ってきた選手達にとって「また新たに4年後を目指す」というのには、もんのすごい決心が必要だ。プロ・トレーナーの旦那さんには速くも仕事のお誘いがかかっているらしいが、「彼女がまだどうするか決まっていないので・・・」と返事を先送りにしているそう。
大変なのはわかってる、いや、実際に彼らの大変さはわかってないだろうけど・・・しかし私としては、もう一度頑張って欲しい。勝手な願いではあるけれども、もう一度、いや今度こそ、オリンピックの舞台で颯爽と走る平尾選手の姿が見たい!そう思うのは私だけでは無いはずだ。

■ オリンピックの新競技は大荒れ!!-vol2:トランポリンの中田大輔選手のこと

この選手は前回の「人生を賭けた努力と比べたら、エジソンの努力なんて鼻クソみたいなもんかもしれない」でとりあげようと思っていた人です。(執筆を待っていてくれた方々、大変に申し訳なく思っております・・・)この人はとにかく明るい。いつでもニコニコ、朗らかで、しかも嫌みなくカッコイイのだ。ところが彼はかなりの苦労人なんであります。
とにかく高い。8m超 ビルでいうと約3Fこの競技は実際見ると、すごく面白い!まず高さに驚き、そして迫力、美しさとかなりハマる。だがしかしそれなのに!!トランポリンの一般的イメージといえば「お遊び」ではあ〜りませんか。そんなものにスポンサーが付くハズもなく、大会で優勝してもたいした賞金が出るでもなく・・・。中田は大会の遠征費用を捻出するため、---区役所での勤務---夜に練習1時間---夜8時から朝までガソリンスタンドでバイト---と、毎日2時間しか眠れないような凄まじい生活をしていたのだ。そして良い大会成績を残し、徐々に世界ランキングを上げていった。が、そんな生活が何年も続くわけはなく、体力も精神力も尽き果てたある日、ついに競技から離れることを考えた。そこへ信じられない朗報が!!トランポリンが、シドニーから正式にオリンピック種目になることが決定したのである。日の目を見ないと思っていたこの競技がオリンピックに・・・ここから、今度はオリンピックを目指す戦いが始まった。
普通スポーツ選手達はあまり取材が立て込むと嫌がるし、大会が近づくとマスコミをシャットアウトするものだが中田だけは違った。中田は自らを「広報担当」と呼び、トランポリンというマイナー種目の知名度を上げるために、練習の合間を縫ってあらゆる取材を受けたのだ。しかも世界でただ1人、中田にしかできない技を2つも持っており、それを本番で成功させればメダルに手が届く位置。それもあって徐々に「トランポリン」と「中田大輔」という選手に注目が集まり、頻繁にマスコミでも取り上げられるようになった。オリンピック種目になったことで援助もつき、だんだんと追い風が吹いてきたのだった。
しかし、悲劇としかいいようの無い出来事が中田を襲う。本番数日前・・・シドニーでの調整中にトランポリンから落下、6mの高さから床に叩きつけられ右足首を捻挫してしまったのだ。それはかなりの重傷で歩くのもやっと。
トランポリンという種目は、10回の連続した跳躍(ジャンプ)で全てが決まる。PART.10回全てを違う技で跳び(「前方4回宙返り1/2ひねり」とか「前方3回宙返り2回半ひねり」とか)、その美しさ(演技点)・難易度などで点数を競う。その間、一度でも演技を中断したりトランポリンから落下したらアウトという非常に厳しい競技である。
そのトランポリン選手が、最も大事な足を歩けないほど怪我してしまう・・・致命傷である。
しかし本人は怪我の直後も至って明るく勤め、インタビューでは「外国選手が”大輔はあの怪我じゃもう無理だ”とか噂してるんですよね〜」なんて笑って話していた。その様子を見ていたら「もしかしてもしかすると、足の調子はそれほど悪くないのかもしれない・・・中田スペシャル(世界新の技)が見られるかも!?」と期待できた。
・・・が、やはり足は相当悪かったのである。
オリンピック本番、中田は転倒した。
8m超という、世界で2,3を争うはずの高く美しい跳躍は影を潜め、女子選手のように低く地味な跳躍。
その低いジャンプの中で無理矢理回転し技を繰り出すも、8回目の跳躍でついに回りきれなくなった。
トランポリン男中田大輔が今年の冬はスノボ男になるらしい…冬季五輪を目指すというのは本当か!?ケガだけは気をつけてほしい…栄光を掴むはずのトランポリンの上で、中田は尻餅をついた。彼のオリンピックはわずか30秒ほどで終わってしまったのだ。
その直後のインタビュー、無理に笑顔を作りながらも彼は言った。「どうもすみませんでした」
・・・・・・泣けてきた。私はただもう沈黙するしかなかった。
中田の結果についてとやかくいうヤツラもいたようだが、そんなことはどうでもいい。あの足の状態で果敢にも出場し、私達に笑顔を向けた彼に黙って拍手を送ろうではないか。
アテネオリンピックでのリベンジを心から祈る。

ちなみに、彼の公式HP(http://www2.odn.ne.jp/~cbb58680/)はかなり面白い。現在休載中であるが中田本人の日記は必読である。著名人・スポーツ選手のHP日記は最近よくあるが、ここまでストレートに書く人も珍しいと思う。そこが非常に愛すべき人物なんである。「今日もまた、コーラを2本もヤケ飲みしてしまった・・・」と苦悩する彼の様はおかしくもあり、悲しくもあり、上等なエッセイと言えよう。再開を静かに待つ。

ロビ太(2000.10.31)

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イラスト: ロビ太
デザイン: おぬま ゆういち
発行: O's Page編集部