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ロビ太の脳味噌しぼりたて!
No.8

第5回
ゆめのあと
〜嗚呼・五輪終了或イハ始マリ〜
その2

■ 何が必要?それは愛。なんつって。

今回のオリンピック、たくさんの感動もあったがたくさんのムカツキもあった。
大騒ぎになった「篠原誤審事件」を始め、女子体操競技の跳馬が、規定より5センチも低かったという信じられないミスまでもあった。
しかし何よりも、とにかく気に入らなかったのが「日本のマスコミ」である。
と、かくいう私も日本のマスコミなのだが、あえて言わせていただく。
「ほんっと、みんな失礼だ!!」
一番腹が立ったのが、競技初日。日本中が涙したヤワラちゃん金メダルの日である。
確かに、あれは素晴らしかった。私も泣いた。
夜のスポーツ番組で、ゲストや解説者たちがヤワラちゃんに「おめでとう」を言いたかった気持ちも分かる。だが、だがしかし、
同じ金メダリストに対するあの態度は何なのだあああ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!
・・・・はあはあはあ・・・と、取り乱してしまうくらい腹が立った。
おわかりの人はおわかりだろう。
アトランタオリンピックに続いて、見事金メダルに輝いた、男子柔道60kg級・野村忠宏選手の事である。

男子最軽量級の彼は、いつもヤワラちゃんと同じ日に試合がある。それでいつも「ヤワラちゃんフィーバー」のあおりをくうのである。
思い起こせばアトランタオリンピック・・・金メダルを期待されていたヤワラちゃんは、北朝鮮のケー・スンヒに敗れてまさかの銀メダル決定。
金メダルを2個も持ってる野村忠宏選手!!野村が改心の一本勝ちで金メダルに輝いたのはその直後であった。感激にむせぶ野村に、どっかのバカ記者がした質問・・・
「直前にヤワラちゃんが敗れましたが、それはどう思いましたか?」
・・・おい。優勝直後の金メダリストに対して、そんなこと聞くか!?
野村はムッとしたのかしないのか、一瞬の間の後「いや、自分は自分の試合をするだけですから」と答えた。
そりゃそうだ。他になんて答えろっていうんだ?
「自分は勝てて良かったです」なんて喜べるわけもない。
それとも「ヤワラちゃんのぶんも頑張りました」とでも言えってか!??
ほんとに腹が立つ。が、当時まだ野村は若く、それほどの実績も無い、いわば伏兵の選手だった。
本人はもちろん金メダルを狙っていたらしいが、コーチにまで「それほど期待もされてないし、お前はチャレンジャーの立場なんだから、リラックスして行け」といわれたぐらいであった。だからまあ、周囲がそんなでもしょうがないかな〜という気もしたのである。

あれから4年後、シドニーオリンピック。野村に与えられた肩書きは「世界王者」「前回の金メダリスト」「二連覇確実か?」という華々しいものであった。ヤワラちゃんや高橋尚子ほどでないにしろ、連日マスコミにも騒がれ、多大なる期待が寄せられていた。
その様子を見て私は、「野村もすごくなっちゃったな〜。良かったな〜」と思っていたのである。
更に個人的には、「100%金メダルを獲るだろう!」と勝手に確信もしていた。
その周囲の期待通り、野村は見事オリンピック2連覇を果たした。
全5試合中4試合が一本勝ち、中でも決勝は14秒という余裕の勝ちっぷりに狂喜乱舞したのは私だけではないはずだ。そして試合直後の優勝インタビューも、アトランタの時のような馬鹿な質問もなく、つつがなく感動の時間が流れていった。
・・・問題はその後だ。
オリンピック期間中は、全局が10時過ぎあたりからスポーツニュースを放送しており、メダル獲得の選手は順番に各局を回って出演する段取りになっている。そのほとんどの局が、とにかく「ヤワラちゃん」一色なのである!!
ヤワラちゃんと野村の両方を一緒に呼んで隣に座らせておきながら、質問はヤワラちゃんにばかり集中。
特に最悪だったのはTBS。シドニーのキャスター達が「ヤワラちゃんヤワラちゃん・・・」と騒ぎ立て、東京のスタジオからの中継が入ったと思ったら、メインの寺脇康文とゲストたちが「ヤワラちゃんおめでとう」「ヤワラちゃん良かったね」と、我先にと争って声をかける始末・・・。しかも、
 
 キャスター「お二人に金メダルを獲った瞬間の事を聞いてみましょう。まずはヤワラちゃん」
   と、先にヤワラちゃんに話をふり、つっこんだりもしながら長々と時間を割く。
   次に野村の番になり、
 野村「その瞬間は技が掛かったのかよくわからなくて、主審が一本といったので・・・」
   と、一言。すると即座に、
 キャスター「ヤワラちゃんもそうでしたか?わからないものなんですか?」

と、すぐにヤワラちゃんに話が戻ってしまう。
ひどいときには、ヤワラちゃんに質問した後、野村のことを忘れて次の質問に行ってしまうという・・・。
どこの局も似たり寄ったりで、見てる私がイライラしてきた。
野村のオリンピック2連覇は、ほんっとうにスゴイことである。柔道界では、あの有名な山下泰裕のライバル・斉藤仁が2連覇を成し遂げただけ。つまり史上2人目の快挙である。しかも当時の斉藤より若い野村には、三連覇の可能性まで残されている。これだけ素晴らしい選手に対して、この扱いはなんなのだ!!??
どの番組でも変わらない「ヤワラちゃんフィーバー」。各局を次々とたらい回しにされているヤワラちゃん&野村の間にも、妙な空気が・・・・・・・ヤワラちゃんは恐縮し、さすがの野村もムッとし始めてきた。(そりゃそうだ)
そして最後の局(どこだったか忘れた)で、ついに、野村のさりげない反撃が出た!!

 キャスター 「日本のファンへのメッセージを、カメラに向かってどうぞ。まずヤワラちゃんから」
 ヤワラちゃん「え〜、本当に、たくさんの方に応援していただき、そのおかげで・・・(以下略)」
 キャスター 「では野村選手、お願いします」
 野村    「(笑顔で)え〜、まあぼくは、田村選手ほど多くは無いと思いますけど、
         応援してくれた皆さん、ありがとうございました」

もうコレを聞いたとき、私は大爆笑したね!!一緒にムカツキながらテレビを見ていた番組スタッフも、みんな拍手喝采である!
と、これだけ読むと野村が気むずかしい世界チャンピオンのように聞こえるかもしれないけど、決してそうではない。
いつでもギャグをとばしてチームメイトとバカウケしてるような人だ。
だからこのさりげない反撃も、彼ならではの「自嘲的なギャグ」なんである。
さすが野村、としかいいようがない。侮辱に近い扱いをされても、堂々としたもんだ。

ほんと、マスコミにはもう少し考えて欲しいものである。これも一重に、彼らの勉強不足ではないだろうか。ずーっとオリンピックを追っかけてきた記者や番組にとっては、ヤワラちゃんも野村も、共にかわらない「すごい人」で「頑張って欲しい人」なのである。メジャーなヤワラちゃんや、高橋尚子だけでなく、卓球だとかボートだとかの選手の健闘をも祈っているのである。
しかしオリンピックの時期だけ選手に群がる一部マスコミは、彼らそれぞれにどんなドラマがあって、どんな苦しみを乗り越えてここまで来たのかを知らない。勉強していない。感じていない。だから「知名度」だとか「自分の価値観」というミーハーな目で、基準で、選手をみるのだ。
もちろん一般視聴者として楽しむ分にはそれでいい。しかし実際に選手と接し、放送を流すマスコミとしては間違っているのではないか。
そこに欠けているのは、選手への愛である。


テレビ朝日にも腹が立った。
同じく柔道だが、こちらは女子57kg級の楢崎教子選手。
楢崎はアトランタで銅メダルを獲得し、結婚・引退したが、シドニーに向けて復活。
そのワケは「金メダルが欲しいから」ではなく「自分自身が納得する試合をするため」だった。
・・・アトランタでは自分の力を出し切れずに銅メダルに終わった。今度は自分の柔道を極めよう、そうすれば結果はついてくる・・・と。
とにかくカッコいい楢崎教子それからの楢崎はまさに破竹の勢い。世界選手権、福岡国際、フランス国際と世界王者に輝いた。
唯一のライバルと目され、アトランタで楢崎を負かしたベルデシア(キューバ)にも、連戦連勝。
もはや楢崎にライバルはいなかった。投げ技から手技・足技・寝技までオールマイティにこなし、なにより頭脳明晰。その理知的な話し方とスマートな試合運びは、周囲に「負けるわけがない」と金メダルを確信させた。
しかしシドニーオリンピックの決勝戦。楢崎はベルデシアに、まさかの一本負けを喫した・・・・・・。
決して油断ではない。おごっていたわけでもない。その一本負けは、「篠原の誤審」と同じぐらい納得のいかないものであったのだ。
先に楢崎が「一本」を獲った。・・・と、誰もが思った(副審も思った)が、なぜかそれが「有効」になった。
その後ベルデシアが楢崎に技を仕掛けた。その掛かり方は、先ほどの楢崎のと似たようなものだったのだが、なぜかそれは「一本」と判定されてしまったのだ。見ていた我々も、解説者も、会場も「今のが一本なら、さっきの楢崎のだって一本なんじゃないの!!??」と大ブーイングだったが、結局そのまま判定は覆らなかったのだ。喜びを体いっぱいで表現するベルデシアと、ただ呆然とうつむく楢崎・・・。
とんでもなく悔しかっただろう。とても笑える気分ではなかったはずだ。
しかし楢崎は、表彰式でファンの声援に応え、一瞬だが笑顔をつくった。
その姿はあっぱれで、解説者も「さすが世界のトップ選手です!」と褒めたほどだった。
楢崎の凛とした姿に、その胸中を思って泣けた。

が!そんな楢崎選手に対するテレビ朝日のコメントは、実におそまつなものであった。(楢崎本人が出演していなかったのがまだしもの救いだ)
以下がキャスターと、何故だかリポーターに抜擢されていた福山雅治の会話である。
 
 キャスター「楢崎選手は惜しくも銀メダルでした」
 福山   「残念ですねー」
 キャスター「実は、楢崎選手はアトランタの時と同じ選手に敗れたんですよ」
 福山   「あ〜、そうなんですか。それは悔しいでしょうねえ」
 キャスター「それでは次の競技です」

・・・おい。なんなんだよそれは。
あのおかしな判定に触れていないのも気に入らないが、それは百万歩譲ってよしとしよう。
問題は、楢崎が負けるべくして負けたようなその無神経な物言いだ。
なにも知らない視聴者が見れば、「ああ、楢崎という選手はベルデシアという選手より、やっぱり弱いんだ」と思うんじゃないか!??
そういうことをいうのであれば、「アトランタでたった一回負けただけで、それ以来連勝していたのに」ってことを言ってあげなきゃいけないんじゃあないのか!!??あきらかに勉強不足だろ!そのコメントは!!
さらに福山雅治!!仮にも「オリンピック・レポーター」なんだから「あ〜そうなんですか」とかゲスト気分で言ってる場合じゃねえだろ!それくらい知っとけ!!・・・・はあはあはあはあはあ・・・・と、これもかなり取り乱す。
もう細かい話をするとキリがないが、そんなこんなでマスコミに腹を立てていたのでありました。


最後にフォローさせてもらいます。
マスコミの全部が全部そうだというような書き方をしてしまいましたが、決してそうではありません。
例えば「日刊スポーツ」の見出しには愛が感じられるものもありました。
競泳で期待された萩原智子が一種目めの個人メドレーで散々な成績だったときの見出し・・・
「泣くな智子、まだ次がある」
成績悪いと叩くのが常のスポーツ新聞の中で、なかなかに珍しいタイトル。
「この記者、萩原のファンなんじゃね〜か〜?」と思ったぞ。(萩原はかなりカワイイのだ)

有働アナ泣く!そして、ムカツキっぱなしのスポーツニュースの中でダントツ好感が持てたのは、NHKの有働由美子アナウンサー。さすがちゃんと勉強してるな、という感じ。
ヤワラちゃんと野村に話を聞いたときも1人づつキチンと応対していたし、楢崎に対しても細かいことまでよく知っていて、優しさが見られました。
更に「篠原誤審事件」での涙・・・。(判定が覆らず篠原の負けが確定したとき、それを伝える有働さんの目からは悔し涙が溢れたのだ。)キャスターが泣くという事には賛否両論ありますが、この件に関しては全然イイと思います。憤懣やるかたない思いでテレビの前にいた私は、つられて悔し泣きしてしまいました。(一緒に泣いた日本人は多かったんじゃないか??)

それに引き替え、某局のアナウンサーは「篠原が負けとは納得できませんよね」とのコメントの後、「さあ、暗い話題はここまでにして次のニュースは・・・」と、凄まじい話の切り替えをしやがった!!なんだそりゃあ〜〜〜!!!・・・はあはあはあ・・・・と、もう取り乱しすぎて疲れるのでこの辺にしとこう。

今回はかなり「ロビタ御乱心」という感じでしたが、実はこれが今回のオリンピックで一番印象に残ったことだったのでした。

ロビ太(2000.12.6)

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イラスト: ロビ太
デザイン: おぬま ゆういち
発行: O's Page編集部